シリコンバレー発SUKIYAKIレポート 2018年5月18日

本コーナーでは、事業開発コミュニティSUKIYAKIが実施したイベント、テクノロジーのトレンドなどについてレポートします。

「継続的赤字が勝利の方程式」
~ユニコーンスタートアップの破壊的戦略〜


■ユニコーンスタートアップの勝利の方程式
TechCrunchに、プラットフォーム型のビジネスモデルに代表されるユニコーンスタートアップには、既存産業を破壊する勝利の方程式が見られるという記事が載った。記事によると、その方程式は「とにかく顧客を獲得し、市場を支配する。それまでは、巨額の赤字を計上し続けながら、競合を市場から追いやる。その後、独占状態に近くなってから価格を上げて儲ける。」というもの。Uberは昨年だけで45億ドルの赤字、Airbnbも創業から9年間赤字を続けた後、EBITDAベースでようやく黒字になったという。
【TechCrunch該当記事】
https://techcrunch.com/2018/05/05/the-formula-behind-san-franciscos-startup-success/

■既存の常識を超えた価格戦略
巨額の赤字を続けながら顧客を拡大し、他の競合を市場から追いやる手法は、価格競争の面から既存プレーヤーにとって脅威的である。ビジネスモデルにもよるが、昨今のプラットフォーム型のユニコーンスタートアップは、クラウドワーカーや遊休資産の活用により、従来型の産業より格段にスリム化されたコスト構造を持っている。その上、AI、アルゴリズムを活用しオペレーションも徹底的に効率化している。このような状況に加え、巨額の赤字覚悟の価格戦略で既存の産業の破壊を試みてくることを想像して欲しい。既存プレーヤーの常識では考えられないレベルの価格を提示可能なことが分かる。

■合理的な上場企業ではとることのできない戦略
継続的に巨額の赤字を長期間続ける手法は、価格のみならず、外圧の面からも上場している大企業を競争から追いやるのに合理的である。上場企業では、単年度のROI、PERについて株主から説明を求められる。そのため、上場後も長期間、継続的に巨額の赤字を計上することは構造的に難しい。継続的な巨額の赤字は、合理性に従わざるをえない大企業の泣き所をついた戦略であると言える。

■勝者は1社のみ??
プラットフォーム型のビジネスモデルでは、Winner-Take-Allと言われる。ネットワーク外部性が働き、利用が盛んなプラットフォームほどユーザーにとっての利便性が高くなり、徐々にユーザーが特定のプラットフォームに集中していく。
ライドシェア業界では、各地域に多くの会社が誕生したが、わずか数年の間に、北米のUber,Lyft、東南アジアのGrab、中国のDidi、中東のCareem、イスラエルのGettなど地域毎の勝者が絞られてきている。北米で人気のUberも、東南アジアではGrab,中国ではDidiに事業を売却している。また、昨今話題になった中国の自転車シェアでもわずか開始3年で、Mobike,Ofoの2強に勝負は絞られたと言われる。各地域でのプレーヤーは2社程度に絞られてきており、勝者が絞られるまでの時間も短くなっている。

■支援家の存在
これらのスタートアップの躍進を支え、勝者を生み出すのが、リスクを取ることができるVCである。継続的に巨額の赤字を続けるモデルでの成功経験があるSequia等のVCが有望スタートアップを目利し、初期の成長資金を出資する。その後、フォローするVCが成長に応じて多額の追加出資を行う。VCのバックアップを得て、スタートアップは、既存の延長線上には無い規模で継続的な巨額の赤字を計上しながら経営することが可能になる。
プラットフォーム型のビジネスモデルに対するVCからの出資額は、増加し続けており、特に将来的成長の期待の高い中国、インドでは資金調達規模の増大が目立っている。最近では、中国ではライドシェアのDidiが$2B以上、Walmartへの買収が合意が行われたとされるインドのFlipkartは$5B以上の資金調達を完了している。ユニットエコノミクスを検討することが定石だったVCも、戦略的な継続的巨額の赤字を受入れ、自らの投資スタイルとして取り入れ出しており、世界的に継続的な巨額の赤字を支える仕組みが整いつつある。
Uber, Lyft, Airbnbなどのユニコーンスタートアップが、ユーザーに対してこれまでにない体験を提供していることは疑いようのない事実である。一方で、これらの企業が、既存の産業を破壊する合理的なビジネス戦略を備えていることも忘れてはならない。

※日経新聞が運営するCOMEMOに筆者が寄稿したものを加筆、補足しました。
https://comemo.io/entries/7421

SUKIYAKI
木村将之
SUKIYAKI代表。 トーマツベンチャーサポート株式会社シリコンバレー事務所Managing Director。筑波大学院非常勤講師。
在シリコンバレー日系企業による新規事業開発を目的とした互助会。「日本を元気に!」をテーマに、シリコンバレースタートアップとの連携による新規事業開発に必要な、機会の創出、組織変革、個人の能力育成につながる活動を定期的に行う。
www.svsukiyaki.com