サンフランシスコ教育委員会ボードメンバー

エミリー・ムラセ 氏

移民が建国したアメリカ合衆国
大切なことは"Diversity"語学を通して"Diversity"に挑む


2017年1月1日
11月下旬、サンフランシスコ(以下SF)日本町で米大統領選挙結果に対するデモが行われる直前に、SF教育委員会でボードメンバーを務めるエミリー・ムラセ氏に、教育を中心にお話を伺った。

SFでの日本語教育の発展

JBBPの立ち上げ(*注1)
1970年頃に日本語が話せない、日本に全く行ったことのない日系人の間で動きが始まりました。第二次世界大戦中の強制収容所の経験がありますので、当時日系人のほとんどは日本と全く関係のない生活をする傾向があったのですが、自分の子供達にはそうでなくて、ちゃんと日本語教育を受けさせたいという、そういう親の思いが集まりまして、SFの教育委員会に提案を持ち込みました。それまではSFの公立学校では、中国語、スペイン語、フィリピン語のプログラムだけだったのですね。
教育委員会からは詳細なプランを提示するように言われましたので、日米会と発起者である親達はお互いのリビングルームなどで集い、草案を練りました。最初の案は、児童の割合は3分の1がネイティブの日本人、3分の1が日系人、3分の1がその他の児童というものでした。それまでの教育委員というのは、市長が任命するものでしたが、当時は選挙式になっていまして、ローカルコミュニティーの声に耳を傾ける傾向にあったので、この提案は受け入れられやすくなっていて、1973年にはJBBPが発足することになりました。

SFにある2つのJBBP

推移
最初は、Emerson Elementary School(現Cobb Elementary School)というカリフォルニア・ストリートの学校で、キンダーから2年生までというプログラムで始まりました。私は3年生だったので、入ることが出来ませんでしたが、妹は1年生、弟は初のキンダーとして通うことが出来ました。しかし小さなプログラムだったので、他のプログラムが大きくなるとそちらを優先されてしまい、以後6校くらい場所を移らなくてはなりませんでした。条件的に転校できない家族もいましたので、継続していくのはとても困難なことでした。1982年にClarendon Elementary Schoolに移り18年以上安定して人数が集まったのですが、学校の予算がカットされてしまい日本語教師の予算が出なくなってしまいました。

イマージョンとの違い
語学のプログラムで、イマージョン(Immer-sion)というものがありますが、これはJBBPとは異なります。イマージョンとは数学や社会といった一般教育科目を英語ではなく、スペイン語や中国語などで学ぶというものですが、JBBPでは一般教育科目は英語で行います。そしてそれにプラスする形で毎日約1時間日本語を教えます。
そもそもJBBPは、ネイティブの日本語教師が日本語を教えることを基本としていましたので、一般教育科目の教師の他に日本語専任の教師の予算を必要としてしまいます。しかも当時は小学校で日本語を教える資格が存在していませんでしたので、予算はどうしても資格を持つ一般教育科目の教師の方に費やされることになってしまい、ネイティブの日本語教師の予算はカットされてしまったというわけです。
ここでClarendon Ele-mentary SchoolでのJBBPのモデルは作られたわけです。そして、ネイティブの日本語教師からの教育を望む児童たちが他校で新しくJBBPを立ち上げることになりました。
更に何回かの移転を経て、現在のRosa Parks Elementary Schoolで定着することができたのですが、この間は本当に苦労の連続でした。ここまで来られたのは先生方のお陰です。先生方みんなが1つになって付いて来てくれましたので、現在のような形になれました。先生方は本当に真面目で、常に真剣に教育に取り組んでおられます。Clarendon JBBPのモデルは、一人の日本語コーディネーターが全てのクラスに日本語と日本文化、行事を教える事ができるようにすることです。Clarendonの日本人の保護者の皆さんが、何でも出来て、生徒たちのためでしたら何でもしてくれる、本当に重要な存在です。
このように同じJBBPでもモデルが異なることになります。韓国語、フィリピン語などを学べる学校が各1校ずつなのに対して、JBBPが2校存在するということは、選択肢として好ましいことです。

語学は"Diversity"を形成する
SFでは白人中流家庭は私立に通う傾向があると思うのですが、Rosa Parks JBBPが定着し日本人の生徒数が増えるに伴い、語学を通したDiversityを求める白人の生徒が増えてきたのには驚きました。 そして、他にはアラブ系、韓国系、アフリカ系など様々な人種が集まっていますので、Rosa Parks Elementary School は、SFでTop3 Most Diversity Schoolに選ばれています。このように公立学校で無料で語学を学べるということは、魅力の1つになっています。教育委員会のボードメンバーで2カ国語を話せるのは私だけなのですが、これからも日本語だけに留まらず、他の言語を学べる環境を作り、教育現場でのDiversityを維持していきたいと考えています。

教育委員会のこれからの課題

人種間の成績ギャップ
SFの公立学校はUr-ban School Districtとしては、ロサンゼルス、サクラメントを抜いて1位の座を獲得しています。サンディエゴが同等です。ただ問題なのが、白人とアジア系の成績と、アフリカ系、ラテン系、パシフィックアイランダー系の成績のギャップは大変大きくとても大きい問題となっています。これは生徒達が悪いということではなく、私達の社会の中でどうしても成功できないシステム、すなわち「仕組み」になってしまっているということです。具体的には先生方のえこひいきですとか、思い込みですとか、また教え方が違うと言う点です。例えば、歴史を勉強するには本を読むより口頭で内容を把握した方が習いやすい生徒達がいるわけです。本を読む力だけに重点を置きますと生徒達の間にギャップが表れて来るわけです。

予算
カリフォルニア州の公立学校の予算は少なく、1人当たり$10,000弱です。ニューヨーク州はこの倍以上です。SFはLocal Revenueでカバーしているので、$13,000〜14,000くらいはあります。語学に関してはLocal Revenueの予算がゼロだったのが、私が$2Millionまで上げました。この予算が必ず日本語に当てられるということではないのですが日本語教師の数も増やせたらと考えています。来年はアラブ語とベトナム語のプログラムを導入する案が出ています。  しかし、次期大統領に決まったトランプ氏はFirst 100 Days のアジェンダの中にサンクチュアリー・シティー(Sanctuary Cities*注2)へのFederal Fundをゼロにすると明言しています。SFの予算は$9,6Billion でFederal Fund は$1Billion なので、約1割が減ることになります。Special Needsの子供達のプログラムの予算などはほぼこのFederal Fundからなので、これからどれだけのものがカットされるかわかりません。

私達にできること"San Francisco Value" "This is the Golden Gate - we build bridges, not walls"(SF市長エド・リーの言葉)

サンクチュアリー・シティーとは
カリフォルニア州には23のサンクチュアリー・シティーがあります。そして全国では大都市であるSF、ロサンゼルス、テキサス州オースティン、ボストン、そしてニューヨークの5つがあり、選挙後もそれぞれサンクチュアリー・シティーを断固として守るという強い姿勢を取っています。

子供には"It will be OK"のメッセージを
トランプ氏の「不法移民を摘発し強制送還する」との発言の後、すでにムスリム、ラテン系、アジア系などへのHate Crime(憎悪犯罪)がレポートされています。小さな子供達には是非"It will be OK"と説明してあげてください。大人の間では不安な気持ちを話したとしても、子供にはこれは許されないことだとの態度を示すことが必要です。
もし仮に日本人だということで被害を受けることがあったらすぐに文書化し学校の先生なり、校長、または私に直接連絡してください。学校側もHate Crimeの記録はきちんと保管しています。黙っているのではなく、口に出していくことが大切です。
今までSFには空気や水のように"Multiculturalism"や "Inclusion Diversity"が "San Francisco Value"として存在していましたが、これからは口に出して見えるところに持って行かないとなりません。

"Safety Pin"安全ピン運動"Be kind to each other"お互い様の気持ち
私はこのようにSafety Pinを付けています。これはイギリスが国民投票によりEUからの離脱が決まり、反移民感情によるHate Crimeが多発した際にネットで広がった運動です。被害者に、文字通り私達は「安全」で「味方」であることを示します。心に思っているだけではなく人に見えるようしています。 ムスリムに対するRegistration(*注3)を必要とする案がトランプ政権から出ています。日系人が強制収容所に送られた時もRegistrationから始まったので、他人事とは思えません。こういう時に日本人の良いところである「お互い様だから」という「人情」を表現したいですね。
これから国として何が起こるかわからない、そんな時にローカルのみんなで一緒にHigher groundに行けたら、きっと強くなれると信じています。

次の世代へ

インターンという選択肢
このように毎日様々なテーマが飛び込んできますので、私の責務は、それぞれに対応していくことです。そして、これからは若い人達にも政治を経験してもらい、後継者を育てていくことにも力を注いでいきたいと思っています。ハワイのメイジー・ヒロノ氏は初の日本生まれの女性上院議員として活躍していますね。
2018年に私は選挙に出ることを予定していますので、2017年のうちに日本人の高校生を3〜5名インターンとして受け入れ、月に1回のペースでミーティングをし、キャンペーンがどんなものであるか実際に経験し、政治に触れていただけたらと思っています。 みなさんの参加をお待ちしています。

(*注1)JBBPとは:
Japanese Bilingual Bicultural Programの略。現地日系人コミュニティーがSF教育委員会に提案し、1973年に発足した日本語教育プログラム。Rosa Parks JBBPでは、英語で学ぶ一般教育科目の他、毎日約1時間程度の日本語を教えている。Clarendor JBBPでは、日本語のコーディネーターが全ての授業に日本語、日本文化が教えられる環境を作っている。両校では語学だけでなく、年間を通して正月、ひな祭り、運動会など日本の文化を体験する行事も取り入れている。
(*注2)サンクチュアリー・シティーとは:
アメリカ合衆国で不法移民を保護する法律。「聖域都市」を意味する。1979年ロサンゼルスで逮捕した移民に対し、移民ステータスを尋問するのを禁じたことから端を発し、1980年代に全米に広がった。
国内政策の特例"Special Order 40"では、警察が移民ステータスを調べるために警察活動を行うことを禁止しており、また米国移民法令"Title 8, Section 1325 of United States Immigration Code"では不法入国した移民を逮捕、記録することを禁じている。 (*注3)Registrationとは:
レジストレーション法。1942年12月に強制収容所内で暴動が起こったことにより1943年2月に収容者に対して宣誓を行わせたもの。