映像監督・大阪成蹊大学 造形芸術学科長

糸曽 賢志 さん

何かやると決めたら絶対に諦めない
「徹底分析、戦略、即行動」がモットー


2018年2月9日
糸曽賢志(いとそけんじ)さんは、スタジオジブリの宮崎駿氏や大林宣彦氏など日本の映画界を代表する大物監督らと映像作品を創ってきた、新進気鋭の映像監督だ。2015年には、大人気漫画「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」の実写映画版で冒頭のアニメシーンをプロデュース。同年、ゲーム「シェンムー3」の映像パートの監督を担当し、同プロジェクトでアメリカのクラウドファンディングサイト「Kickstarter」で開発資金募集キャンペーンを行い、最も短時間で資金調達に成功したビデオゲームとしてギネス記録に認定されている。論理的な語り口調ながら、作品制作の話に及ぶと聞いている側がワクワクしてくるほど楽しそうに話すのが印象的で、映像制作への熱意がひしひしと伝わってくる。話しぶりから受ける左脳派な印象とは裏腹に、不意にノートの端に落書きのようにわずか数秒で描いてくれたトトロの絵は、まるで宮崎駿監督本人が描いたかのようなリアルなトトロで、やはり類稀な絵の才能を持った右脳派の芸術家であることも明らかだ。
今回J weeklyでは、映像クリエーターとしても企業経営者としても類い稀なる才能に溢れた糸曽さんに、これまでの歩みとこれからの展望を伺った。

映像監督になったきっかけは何でしょうか。
週刊少年ジャンプに掲載されていたドラゴンボールが大好きで、高校時代から漫画家を目指してジャンプの編集部に作品の持ち込みを続けていました。大学時代には、アニメーションの授業を取りながら、CG制作のアルバイトもしていました。その頃に宮崎駿監督の「もののけ姫」が公開され、「すごい映画だな」と思って感動したんです。同時期に、宮崎さんが、ジブリの後継者を育てる為に開いた演出家養成塾をに応募して合格し、宮崎さんに師事したのを機に本格的にアニメ制作に携わるようになりました。アニメのみならず、実写映像も手掛けるようになったきっかけの一つは、大ヒット長編アニメーション映画「君の名は。」が記憶に新しい新海誠監督の存在があります。新海さんの登場で、自分も垣根を超えたクリエイターになりたいと思ったんです。

宮崎駿監督から学んだことの中で一番印象に残っていることは何ですか?
たくさんあります。その中でも、「エンターテイナーは嘘つきでないといけない。」という言葉が特に印象に残っています。「見る人を楽しませるためには、良い意味でその期待を裏切る必要がある。作品の中では見る人を上手く騙すことを考えなければいけない」ということを教わりました。宮崎さんの作品は、すべてのシーンに裏があります。非常に考えの深い方で、何げなく描かれている背景の映像などにもすべて意味があります。最終的に伝えたいテーマがあって、時間が120分など限られているなら、全て意味のあるシーンで構成しないといけないという事も学びました。

他にも巨匠と呼ばれる監督と一緒にお仕事されていますが、大物監督に共通する点はありますか。
共通して言えることは、僕みたいな若手を煙たがらずに可愛がってくれることです。相手が大物であろうと、僕は意見をはっきり言ってしまうタイプ。ある大物監督と仕事をした際に、その監督の演出案に対して僕は「これはつまらないなぁ。」と正直に言ってしまったんです。見ている周りの人達はハラハラして「何を言っているんだ若造!」という雰囲気になりました。しかし、監督はちゃんと若手の意見にも耳を傾けてくれて、演出案について一緒に議論をしてくれました。大物監督らは周りから正直な意見を言ってもらえないという悩みがあるのかもしれません。心の広い人が多いですね。

エンジニアやクリエイターとして能力が高くても、会社経営がうまく出来ない人は多いですが、成功の秘訣は何だと思いますか。
父親の影響が大きいかもしれません。僕は、小さいころからその辺に売っていない珍しい物ばかりを欲しがる子供だったんです。父は、どうすればそれが手に入るか様々な作戦を練り、様々な作戦を実際に行動に移して最終的に必ず手に入れる人でした。それを見て、強く願えば叶うんだと思って育ちました。あと、ある日両親に言われたんです。「作品を作るのはいいが、その後どうやって売るのか考えたことあるのか?」と。僕は当時、作ることしか考えていなかったので、営業やプロデュースについて考えたことがありませんでした。親がくれた新聞記事を通して、早稲田がコンテンツプロデュースを教える大学院を設置したことを知り、早稲田の大学院に進学しました。僕は何かやると決めたら絶対に諦めない。どうすれば実現出来るか考えて実際に行動に移していきます。クリエイターで自分のやりたいことが実現しない人の思考の特徴として挙げられることは、もの作りが大好きで、自分を表現したいというのが前面に出ていることだと思います。その作品が誰の役に立つのか?制作に協力する人達にとってどんなメリットがあるのかという問いに答えられない人が多い。まずは売れる物を考えて、そこに自分の表現したいことをどう載せるかを考えれば良いと思います。

アメリカのクラウドファンディング「Kickstarter」で4度、累計8億円以上の資金集めに成功されたそうですが、コツはありますか?
事前準備がとても重要です。事前にどれだけ告知をしてイベントなどを仕掛けるかが鍵。僕は、kicktraqというクラウドファンディングの過去のプロジェクトを分析するサイトを使って過去に成功しているアニメプロジェクトを徹底的に分析しました。ある日突然多額の資金が集まっているのでその日に何があったのかを調べてみると、そのプロジェクトに関する記事が出ていたりする。過去の成功プロジェクトを分析し、自分に何が出来るかを考えて戦略に当てはめていきます。分析の結果分かったのは、プロジェクトの設定期間は30日が最も効果的。初めの48時間で3分の1から半分の資金が集まり、真ん中の26日で3分の1、残り2日でもう3分の1が集まります。真ん中の26日間は毎日イベントやプレスリリースを出すのもコツです。

夢を追って頑張っている若者にぜひアドバイスをお願いします。
過去の高い評価を得ている作品を見て先人から学ぶことです。これは、宮崎監督やその他の監督もおっしゃっていたことですが、既に様々な手法が出尽くしていて、新しいものというのは生まれようがない。源流を学び、その上に自分の要素をどう載せるかが大切。自分を表現することだけを考えるのではなく、ターゲットを絞り、その人達をどうやって幸せにするのかを考えてやらなければ誰も見てくれませんし、協力もしてくれません。あとは、絶対に諦めないことですね。


オリジナルアニメ「コルボッコロ」
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KENJI STUDIO.co.,ltd
糸曽 賢志( Kenji Itoso)
映像監督・大阪成蹊大学 造形芸術学科長。
アニメーション、実写映像、ミュージッククリップ等の企画・演出・制作・プロデュースを担当し、その作品は日本のみならず欧米でも高い評価を得ている。大学在学中より読切漫画を執筆し少年ジャンプの新人賞を受賞。スタジオジブリ主宰の東小金井村塾にて宮崎駿氏に師事。2006年、「セイキロスさんとわたし」で初監督。2007年、オリジナルアニメ「コルボッコロ」にて石原慎太郎元都知事より表彰される。2014年発表の「サンタ・カンパニー」が、文部科学省選定作品に選出されカンヌ国際映画祭で紹介上映される。駐日フィンランド大使館の公式キャラクター「フィンたん」のデザインを担当。東京造形大学卒業、早稲田大学大学院修士課程修了。
公式サイト:www.itoso.net
公式ブログ : http://yaplog.jp/kenji-itoso/