第40回 2022年コロナ禍でのアメリカ音楽大学受験事情

 みなさま、こんにちは。シリコンバレーでピアノ教室を主宰している、有座なぎさです。「音楽教育のススメ」と題したコラムを毎月第四週目に担当させていただいています。今年も音楽教育に関する興味深い話題をお届けしていく所存ですので、どうぞよろしくお願いいたします。

 コロナ禍と言われて久しいですが、現在に至るまで、世界中の音楽シーンにも重大な影響を与えています。コンサートが中止や延期になったり、対面予定だったものがバーチャルで行われたりと目まぐるしく変化しています。2020年の音楽大学受験では、なんとかギリギリ対面でのオーディションを行うことができましたが、それ以降、2021年、そして2022年の今年も、ほとんどの大学でライブ・オーディション(本審査)は、バーチャル、もしくはレコーディングでの審査となっており、現在までのところ、今年度ライブ・オーディションを対面で行う学校は、The Juilliard School, Curtis Institute, Manhattan School of Music, Colburn Schoolなどに限られています。もちろん、海外からの受験生に対しては、上記の各大学とも救済策を取っており、Curtis Instituteでは、海外からの受験生でフィラデルフィアに出向くことが困難な場合のみ、バーチャルでの受験も可としています。New England Conservatoryが今年度、録音でのオーディションに変更になったことは、受験生に少なからず驚きをもたらしました。

The Orchestra Audition at Carnegie Hall

 未だ終わりの見えないコロナ禍での受験ですが、レコーディングの需要はますます高まっています。ずらりと並んだ教授陣の前で演奏する、ライブ・オーディションは大変緊張するものですが、誰も観客のいないスタジオで自分自身の演奏と向き合う、スタジオ・レコーディングもまた、別の意味で気力と体力を要するものです。現地の大学に赴き、たった10分間の審査にこれまで準備してきた全てを出し切るライブ・オーディションと違い、何時間あるいは何日もかけて、最善の録音を準備するレコーディングでは、何度も撮り直しができるために、ちょっとしたミスやテンポの揺れ、音程などを気にしだすとキリがありません。音大を受験しようとする生徒さん達は、自分の録音を喜んで聴くという人はそれほど多くはないと思います。大抵の人は、自分の演奏を聴くのは気が重く、ミスばかりが目立って理想の演奏にはほど遠いと感じる場合が多いのではないでしょうか。けれど、その苦行を乗り越えて、自分の演奏にじっくりと向き合い、できていない部分を把握して日々の練習で改善させていくことができれば、飛躍的に演奏力は向上します。実は、自分の演奏を聴く、という作業は日々の練習でも欠かせない練習方法なのです。ちょっとしたパッセージやフレーズをスマホなどで、録音しながら練習するだけでも、改善が期待できます。演奏中に自分の音を聞いているつもりでいても、後から録音を聴くと「あれ?こんなふうに弾いてたっけ?」と思うことがしばしばあります。また良くも悪くも、演奏中には気づかなかった自分の癖を発見することもあります。

   Osher Salon in San Francisco Conservatory of Music (SFCM)

 音楽を真剣に学んでいる生徒のみなさんは、これからは是非、レコーディング作業にも慣れていってほしいと思います。スタジオ・レコーディングした良い演奏ビデオは、強力な武器になります。私の教室では、この時期、ピアノの生徒さん以外のさまざまな楽器の音大受験生が訪れ、レコーディング・セッションを行っています。また、グランドピアノが2台あり、レコーディング設備が整っているスタジオは希少なため、外部のピアノ教室の先生からも、ピアノコンチェルト用に数多くの依頼があります。私の教室では、バーチャル発表会の後に生徒さんのうち希望者にはレコーディング・セッションを行なって、鮮明な音と画像のビデオを制作しています。そしてそれらの演奏はコンペティションやオーディションにも大変役立っています。

 受験生のみなさんは、レコーディング・オーディションを受ける場合には、是非良い音質・画質のビデオを準備して、ドリームスクールへの栄冠を手にしてください。