第10回 アンサンブルのススメ

みなさま、こんにちは。シリコンバレーでピアノ教室を主宰している、有座なぎさです。昨秋から「音楽教育のススメ」と題したコラムを毎月第四週目に担当させていただいています。早いもので、この連載も10 回を数えます。皆様からのフィードバックや感想がとても励みになり、毎回楽しく執筆させていただいています。音楽、そして教育に関するご質問はウェブサイト(www.nagisaariza.com) からいつでもどうぞ。

さて、今回は音楽のレッスンにアンサンブルの機会を取り入れることの大切さにについてお話したいと思います。音楽のレッスンで、特に個人レッスンを始めて間もない生徒さんにとっては、基本的な技術や音楽的な知識の習得、フレーズやパッセージの歌い方や演奏の仕方など、学習することが盛りだくさんで、なかなか他の人と一緒に演奏したり、違う楽器と合わせたりする余裕はないかもしれません。

また鍵盤楽器、特にピアノの生徒さんにとっては、「アンサンブル」というと、真っ先に思い浮かぶのが先生やお友達とのピアノ連弾で、かなり上級にならないとなかなか他の楽器と一緒に演奏する機会は少ないかもしれません。けれども、音楽学習者にとって、自分の楽器以外とのアンサンブルの経験はとても大切で意義深いものです。なぜなら、音の出し方や音が出るタイミング、また楽器の持つ最大音量というのは、それぞれの楽器によって異なり、楽器間のバランスや、異なる楽器で同時に音を出す訓練が、優れた演奏をしていく上で欠かせないからです。

また左右両手でしか全体のバランスを考える必要がないピアノソロの音楽に対して、他の楽器、それも複数の異なる楽器と一緒に弾く場合は、全体のバランス、すなわち、すべての楽器の中でのピアノパートとしての良いバランスが求められます。とかくピアニストは孤独で、長時間の練習に1人で黙々と耐え、莫大なソロのレパートリーをこなすのに必死で、演奏が独りよがりに陥りやすいのですが、他の楽器とのアンサンブルを勉強することによって、円熟したピアノ演奏ができるようになっていきます。例えば、音の出し方一つをとっても、ピアノはオーケストラの楽器の中で、おそらく最も速く音が鳴る楽器で、弦楽器に比べて大きな音が出やすい楽器といえます。そのため、アンサンブルでは、どうしてもピアノの音が先に出てしまい、他のパートとタイミングがズレたり、ピアノが大きく弾きすぎてバランスを欠くことが多いのですが、弦楽器や管楽器に合わせて同時に音を鳴らす方法や、音色、グループ全体のバランスを学ぶことで、より音楽に深みが出て、音楽の持つ美しさを表現できるようになります。また、気の合った仲間と演奏するのは最高に楽しいものです。

ピアノに限らず、音楽学習者の方は是非、室内楽やオーケストラで、他の楽器とのアンサンブルを通して、より円熟した演奏ができるようになってほしいと思います。

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