NASA Ames Research Center 2020年ブレークスルー賞授賞式レポート |ブラックホール撮影チーム代表インタビュー

11月3日、マウンテンビューあるNASA Ames Research Centerで2020年ブレークスルー賞授賞式が行われた。同賞は2012年にはじまり、基礎物理学、生命科学、数学の3分野でそれぞれノーベル賞よりも多い3ミリオンドルの賞金が授与され、科学のアカデミー賞とも呼ばれる。設立、運営にはFacebook代表のMark Zuckerberg氏、Tencent代表のMa Huateng氏、投資家のYuri & Julia Milner夫妻、23andMe代表のAnne Wojcicki氏、Google代表 Segey Brin氏などが携わっている。

今年の基礎物理学賞は人類で初めてブラックホールの撮影に成功したEvent Horizon Telescopeチームが受賞した。同プロジェクトには日本を含む20ヶ国の研究所、総勢347名が参加している(賞金は全員で均等に分け与えられる)。代表のSheperd Doeleman博士はJ weeklyのインタビューに対し「とても素晴らしい賞だと思います。多くの人々に研究成果ついて説明できる素晴らしい機会だと思います。初めてブラックホールを見た時はとても感動的でした。チームの中にはこのプロジェクトに20年以上も費やした人がいます。世界中から人を集め、年長者から若者まで様々なキャリアの研究者がいて、チームが一つとなりこの発見の瞬間が、人間としてとても重要なものだと感じました。そして今日はその感動を共有できる素晴らしい機会だと思います。」「日本のチームと仕事できたのはとても素晴らしい経験でした。本間希樹氏や秋山和徳氏がチームにいて、彼らは素晴らしかったです。アメリカや世界中のメンバーと共に、イメージング作業の殆んどをリードしてくれました。私はいつも、世界規模の望遠鏡を作るには、世界規模のチームが必要だと言っています。日本のチームと仕事ができて特に良かったことは、チリにある巨大な望遠鏡ALMAのフェーズアップにも彼らが協力してくれたことで、それはブラックホールの撮影に繋がった国際的な試みの一つでした。」と日本チームへのメッセージを伝えた。

生命科学分野では、アルツハイマーのような神経変性疾患が起きるメカニズムの一つをつきとめたVirginia Man-Yee Lee博士、満腹中枢をコントロールするレプチンというホルモンの発見をした Jefferey M Friedman博士、淡白質が各細胞で正常に折り畳まれるのを補助する分子シャペロンの機能、そして年齢や病により正しく折り畳まれなくなることを発見したAuthur L. Horwich博士とF. Ulrich Hartl博士、そして唐辛子を用いて痛覚を生じる細胞内シグナル伝達メカニズムを発見したDavid Julius博士の5名が受賞した。

数学では、高度に抽象的な多次元空間における「magic wand theorem(魔法の杖定理)」の証明をしたAlex Eskin氏が受賞した。本授賞式では、同研究に共同で関わり、2017年に乳がんで死去した数学者、Maryam Mirakhani氏を讃え、PhD取得2年以内の若手の女性数学者のための賞が今後設けられることも発表された。

12歳から18歳を対象としたBreakthrough Junior Challengeでは、バーリンゲームの高校に通いながらニュートリノ天文学を勉強しているJefferey Chen君(17歳)が受賞した。なぜニュートリノ天文学に興味を持ったのですか?という質問に対し「私は子供の頃から自分が住んでいる世界の向こう側に何があるのか興味がありました。ニュートリノ天文学の素晴らしいところは、ニュートリノは宇宙を調査するための新しい方法ということで、従来の望遠鏡のような光を使った観測方法とは違い、ニュートリノという素粒子を採取します。高エネルギーのニュートリノは巨大な宇宙事象で放出されるので、それを観測する事で宇宙で何が起きてるか知ることが出来ます。」と熱心に語り、科学を勉強している他の学生へのメッセージとして「科学に興味があるなら、是非その道に進むべきです。私は子供の頃は科学に興味があると分かりませんでしたが、この道に進んで良かったと思います。また、科学者なら他の人とコミュニケーションをとる方法を知っていた方が良いと思います。素晴らしいアイディアも共有されなければ誰も関心を持ってくれません。研究とコミュニケーションの両方が大事だと思います。」と話した。ニュートリノ研究では過去に、鈴木洋一郎氏、鈴木厚人氏、梶田隆章氏、西川公一郎氏が日本人として2016年に基礎物理学ブレイクスルー賞を受賞している。

Sergio Ferrara博士、Peter van Nieuwenhuizen博士と共にSupergravity(超重力理論)を提唱し、基礎物理学で特別賞を受賞したDaniel Freedman博士に受賞について訊ねると「今回の受賞は私のキャリアの中で本当に頂点だと思います。私の思考のずっと遠くにいっていたものが、やっと日の目を見ました。1976年にこの理論について書いたので、43年かかりました。本当に長い時間です。私達はアインシュタインの理論にグラヴィティーノという超対称のフィールドを加え、アインシュタインの重力理論と素粒子物理学を繋げました。グラヴィティーノは量子力学的な物質を重力に引き合わせるものなんですよ。」と話してくれた。

また、ゲストとしてiPS細胞の研究で2013年に生命科学ブレークスルー賞を受賞した山中伸弥博士も参加、受賞者の中では日本人が研究に携わったブラックホールの撮影チームに特に関心があると述べ、代表のDoeleman博士と話すを楽しみにしていると話した。

授賞式の司会を努めたコメディアンのJames Corden氏をはじめとして、俳優のEdward Norton氏やDrew Barrymore氏、歌手のLenny Kravitz氏などの著名人も多数プレゼンターとして参加した。Edward Norton氏は賞について「今夜ここに集まった人達の仕事を讃えることは、映画や音楽、スポーツのどれよりも重要だと思います。実際に世界を変える仕事ですからね。ストーリーを伝えるのに映画がいつも最良だとは限らないと思います。実際の人物を紹介することの方が重要なこともあります。私は生命科学の分野で受賞した Jeffrey Friedman のプレゼンターをする予定です。彼は人々の人生を変える仕事をしました。」とコメントした。

授賞式全体の様子はNational Geographicチャンネルで多国語字幕付きで配信が予定されている。

Breakthrough
Event Horizon Telescope
Event Horizon Telescope日本チーム
Jeffrey Chen君のニュートリノ天文学解説動画

過去の日本人受賞者(敬称略):
山中伸弥 – 2013年 生命科学賞
鈴木洋一郎 – 2016年 基礎物理学賞
鈴木厚人 – 2016年 基礎物理学賞
梶田隆章 – 2016年 基礎物理学賞
西川公一郎 – 2016年 基礎物理学賞
大隅良典 – 2017年 生命科学賞
森和俊 – 2018 生命科学賞