山本帆介さん / サンフランシスコバレエ団 ソリスト – まるでLive映画の世界に入ってしまったかのようなファンタジー。 自分じゃない誰かを演じる楽しみ。

現在、サンフランシスコオペラハウスで公演中のNutcrackerに出演されている、バレエダンサー 山本帆介さんにお話を伺いました。

©︎ Erik Tomasson

山本 帆介(やまもと はんすけ)
13歳よりバレエを始め、1996年ロイヤルバレエスクールへ留学。その後1年間、今村博明氏、川口ゆり子氏に師事し、バレエシャンブルウエストにて活躍する。1999年ナショナルバレエ・オブ・カナダに入団、2001年よりサンフランシスコバレエ団に移籍。2005年、日本人男性舞踊手として初めてソリストへ昇進。以後、著名振付家の作品の多くでソリスト、主役を踊っている。

どんな子供時代でしたか

子供の頃は、千葉県の内房総で育ちました。海沿いで育ったので自然が大好きです。5人兄弟の末っ子で、サッカーや釣りに行きアクティブに生活をしてました。

いつ頃からバレエに興味を持ったのでしょうか

中学生になるとリビングでマイケルジャクソンやプリンスのMV(music video)など観て踊っていたのですが、そんな僕を見ていた姉と母に、ほぼ強制的に近所のバレエ教室に連れて行かされたのが最初です。そして、中学3年生の頃には学校後、一人で東京へ電車で2時間かけて毎日通ってました。夜のレッスンが終わると帰りは最終電車、とてもキツかったのを覚えています。当時は義務的な感覚で通っていましたが、今考えると踊ることが好きだったんですね。もうその頃には、自然とプロのバレエダンサーになる夢を抱いていました。

バレエを始めて3、4年後、16歳の時には英国ロイヤルバレエ学校に入学していました。

16歳で親元を離れて英国に渡ったとのこと、不安はありましたか

留学することに不安などはありませんでした。その頃の僕は、生意気だったし、世間知らずで自分が世界の中心にいましたから(笑)、希望に満ち溢れていました。

朝から晩までバレエ漬けの生活で、イギリス人はもちろん、ヨーロッパ、北米、南米、世界各国からトップダンサーを目指す優秀な学生達が集まっていましたから競争も激しく無我夢中で練習していました。そんな彼らと競い合う中で、自然と世界でも通用する自信が身につきました。

ロンドンでの生活はいかがでしたか

当時のロンドンはとても住みにくかったです。物価は高いし(当時1ポンド350円くらい)、食事は不味いし(本当に美味しくなかった!)、街並みもなんか暗いし、冬は寒いし。しかし、ここ数年ツアーでロンドンに行きますが、すごく良く変化していてビックリしました。レストランは美味しく、日本食レストランやマーケットもたくさんあり人々もオープンな感じになって、とても明るい都市になったなあと思いました。

©︎ Erik Tomasson

バレエダンサーとして最も好きな瞬間、楽しい事などを教えてください

芸術とは、人間の持つ、自己を表現する本能のようなものと思っています。そしてそんな自己を人々の前で表現し喜んでもらえたとき、共感していただいたとき、幸せに思います。

バレエは総合的な芸術と言われています。ダンサー、振付家、スタッフ、照明、衣装、オーケストラ、メイク、その分野に関わるたくさんのプロフェッショナル達が一つの舞台を作り上げていくのが醍醐味です。劇場の全ての人々が何かを一瞬でも共有する瞬間、演者と客席がひとつになりエネルギーの会話が起こる。そんな素晴らしい空間を体験します。

非現実的な世界、まるでLive映画の世界に入ってしまったかのようなファンタジー。自分じゃない誰かを演じる楽しみがあります。カーテンコールでスタンディングオベーションがある時は、この仕事に携われたことを嬉しく思います。

逆に、大変だなと思う時は

体力的な厳しさはありますね。毎朝起きる時は、筋肉痛や関節痛で、唸りながら起きます。ウゥ〜、イタタタって。舞台上では笑顔で踊っていても実はふくらはぎがツッていたりするときもあります。(笑)

ストレスとの戦い方、解消法、モティベーションの保ち方などを教えてください

観客や芸術監督からの評価が常にあるので、プレッシャーはあります。さらにバレエは明確な結果が出ないので、自分自身への評価がとても難しいです。上手くいった時の高揚感と失敗した時の自己嫌悪感の差が激しく、自分を見失ってしまうこともよくあります。

毎日のトレーニングを欠かさず生活リズム、ルーティーンを守るようにして、モティベーションを保つために出来るだけ自分に自信を持つようにしています。広い視野を持って良いものを見て、周りから良い影響を受ければ僕もその方向へ行こうとするから、自然とモティベーションも上がっていきます。ストレスは溜めないようにします。基本、仕事場以外ではバレエの事は考えません。家の中で踊ることはできませんしね。

ご家族構成は

妻(カナダ国立バレエ団の元バレエダンサー)と、14歳の息子と犬1匹です。

年のスケジュール、休暇の過ごし方、日本に帰る頻度など教えてください

サンフランシスコバレエはとてもインターナショナルで、世界各国からダンサーが集まり、良才で個性的なダンサーがたくさんいます。7月からOpera Houseで行うシーズンのリハーサルが始まり、秋頃になると国外、国内のツアーに行きます。(今年は、ロンドン、コペンハーゲン、アイダホのサンバレーなどに行きました。)ツアー後は、12月に冬恒例のくるみ割り人形の公演が、30公演以上続きます。ちなみにサンフランシスコバレエ・Nutcrackerはアメリカで初演したバレエ団で、今年で75周年になります。新年が明けると、1月〜5月まで本公演のシーズンが、War Memorial Opera Houseで70回以上の公演が行われます。2020シーズンでは、シンデレラ、ロミオとジュリエットなどの古典作品の他、アメリカやヨーロッパで活躍されている才能あふれる振付家達のモダンで素晴らしい作品を公演しますので、ベイエリアの方々に是非観に来てほしく思います。

シーズンが終わると夏休みを頂いて、日本に帰ったりしますが、日本でもゲストアーティストとして舞台に出演しています。

ベイエリアでの暮らしのプラス点とマイナス欠点

とにかく国際的。様々な国の人々や文化や考え方に触れられるのは素晴らしい事です。そして食文化。これもまた国際的で、美味しいレストランがたくさんあります。企業や技術は世界の中心地であり新しい技術の発信地。そんな企業達の成功を見ていると感心します。芸術の分野でも、シリコンバレーの企業のように世界を圧巻できると良いと思いますね。

Jweeklyの読者に一言

ベイエリアで働いてる日本人の方々は、起業家や技術者、料理人などの優秀な方々が多いと思います。ベイエリアは芸術の分野でもとても優れた地域です。お仕事の帰りに時々バレエやオペラ、シンフォニーなどの芸術に触れてみませんか?何か新しいアイデアを思いつくかもしれませんよ。