第21回 日本とアメリカの音楽大学、ここが違う(後編)

みなさま、こんにちは。シリコンバレーでピアノ教室を主宰している、有座なぎさです。「音楽教育のススメ」と題したコラムを毎月第四週目に担当させていただいています。

今回は、前回に続き、日本とアメリカの音楽大学の違いにスポットを当ててお話しします。

音大入試についてさらに深く掘り下げてみていきましょう。日本の音大受験では、専攻の実技試験の他にさまざまな、音楽の基礎知識や長年のトレーニングが入試で問われます。音楽大学に入る前に、すでに普通の小中高の音楽の授業では習わないような専門知識とスキルを身につけていないと、入学試験すら受けられないのです。その中でも最も重要なのが、副科のピアノ実技です。日本の音大では、ピアノ専攻以外の人は、必ずピアノの副科実技試験を受けなければなりません。それも古典派のソナタやバッハなど、一朝一夕には学べないレベルの課題曲が出題されます。ですから、日本では、将来音楽の道に進む可能性がある生徒さんは、小さいうちからレッスンに通って、ピアノがある程度弾けるようになるのは当然、という考え方が広く浸透しています。

ところが、アメリカの音大受験には、ピアノ専攻の人以外、ピアノの実技試験がありません。もちろん、以前からピアノを習っていて、すでに相当なレベルまで弾けるようになっている人もいるでしょう。しかし、中には、高校のジュニアやシニアの学年になって、急遽、音楽の道を志望することを決める人もいて、アメリカでは、そのような人でも自分の専攻楽器、または声楽や作曲の実技さえ上手であれば、これまで全くピアノを弾いたことがなくても、少なくとも入試の際には構わないのです。自分の専攻の演奏(作曲の場合は作品)、一発勝負です!しかし、これはピアノを教えている立場の私から見ると、少々違和感があります。なぜなら、すべての音楽を志す人にとって、ピアノが弾けることは基本と考えるからです。

ピアノは音楽の導入に最も適した楽器であり、音感やリズム感、初見力(楽譜を速く正確に読む力)、メロディーと伴奏のバランスなどを身につけるのにも最適です。例えば、聴音力の育成という観点から見ても、習いたての初心者では正しい音程が出しにくい弦楽器(バイオリンやチェロやビオラなど)に比べ、ピアノは調律さえしてあれば、いつでも正しい音程の音が出せますし、聴音など耳のトレーニングにおいても、ピアノで行うのが最も簡単で効果的です。音大出身者のほとんどが、何かしらの音楽教育活動に携わることを鑑みれば、やはりピアノのスキルは、ある程度あった方がよいのでは、と考えます。ここでも、アメリカと日本の音楽大学入試に対する捉え方の違いが出ていると思います

カーネギーホールでピアノ演奏する生徒の山田夕凛花さん

オールマイティな音楽スキル全般を入試で問う日本に対し、専門分野の演奏(あるいは作曲の場合は作品)一つで一発勝負というアメリカの音大入試。ただしアメリカの音大でも、入学してから、ピアノ副科実技や聴音を学ぶことは日本の音大と変わりありませんので、将来のためにも、前もってこれらの準備しておくことは、決して無駄にはならないでしょう。