Apple Cardでアップルが目指す世界
Apple Cardの発表が話題をさらった。2019年3月下旬、アップルはGoldman SachsとMasterCardとの提携による新しいクレジットカードApple Cardの発売を発表した。 アップルのCEOであるTim Cookは、「50年間で最も重要なカード業界の変化」と語る。既存のアップルのサービスとアプリ、支払い機能と緊密に結びついたApple Cardの
アップル経済圏への巻き込み
Apple Cardでは、通常のクレジットカードでかかる「年会費」「延滞金」「国際決済手数料」「限度額超過手数料」が一切かからないことが話題となっている。アップルは、Apple Cardによるリワードにより、アップルエコシステム、特にApple Payへの顧客エンゲージメント促進を狙う。ユーザーがApple Cardにより、Apple StoreやApp Storeでアップルの製品やサービスを購入すると3%のキャッシュバック、Apple Payを介した取引では2%のキャッシュバックが得られる。 アップルがApple Cardの発表と同時に、メディア購読サービス「Apple News +」、動画配信サービス「Apple TV +」、ゲーム配信サービス「Apple Arcade」などのさまざまなサブスクリプションサービスを発表したのは偶然ではない。アップルは、3%のリワードを武器に、ユーザーをアップルのエコシステムにより強く巻き込もうとしていると考えられる。割引を嫌うアップルが提供する3%のリワード特典は、カード保有者とアップルのサービスとの関係をより強固なものにすると考えられる。
データプライバシーに配慮したFintechサービス
データプライバシーに関する関心が高まりつつある中、アップルは自ら厳しい姿勢を打ち出す。新たに発表された「Apple Card」も例外ではなく、データプライバシーに配慮しつつ、独自のバンキング・サービス機能を提供することを目指す。iPhoneの取得した位置情報を活用し、機械学習により「いつ」「どこで」使ったのかをより正確にラベル分けできるので、お金の流れを正確に可視化できる。 カードの利用履歴は全てiPhone内に保存され、利用履歴の可視化はiPhone内で完結するようになっている。アップルは、利用場所、購入金額や購入品目に関する情報を一切収集せず、顧客のデータを保有しない方針を打ち出す。パートナーであるゴールドマン・サックスにも利用者のデータを第三者のマーケティング会社や広告会社にデータを転売しないことを約束させている。 データプライバシーに対して、規制当局の監視や大衆の注目が集まる中、自ら率先して取り組むことにより、広告ベースのビジネスモデルを持つ他のテックジャイアント、Fintech企業との差別化をすすめている。
セキュリティ面での差別化、不正コストの低減
ユーザーがWalletアプリを通じてApple Cardに申し込むと、申し込みから数分でカード番号がデバイス単位で付与されApple Payの端末内決済と非接触(NFC)決済を利用できるようになる。顧客は、Apple Payが使えない店舗で支払えるように、カード番号、CVコード及び有効期限がない、物理的なカード(情報は内臓のICチップが保有)を選択することも可能である。 アップルはセキュリティ面も強調する。顧客はiPhone上のApple Walletアプリを通じて購入履歴と残高をモニターできる。既に利用されているiPhoneでの決済にはTouch IDまたはFace IDによる認証が必須となる上、決済ごとに生成されるワンタイムのセキュリティコードが必要となるため、より安全に使えるという。カード番号をやり取りする必要がないため、カード番号の入手による不正を防ぐことができる。 以上に加えて、Apple端末から得られる位置情報、トランザクション情報を組み合わせたAIによる分析、Walletアプリを介した顧客への通知を通じて、顧客エクスペリエンスにも配慮しながら不正利用を劇的に減らすことが可能ともいわれている。不正利用防止が従来のクレジットカードビジネスにおいて重要なコスト要素となっているため、優れた不正防止技術がビジネスモデル上の競争優位となる可能性がある。 様々なメリットを持つApple Cardは、2019年の夏から提供が開始される。