中国での顕著な影響
COVID-19がスタートアップエコシステムに与える世界的影響が懸念されている。震源地となった中国では年初から経済への影響が顕著となり、2020年1月と2月の工業生産は13.5%落ち込み、小売りの売上は20%強落ち込んだ。中国のスタートアップへのシリーズA以降の投資件数は、2020年1月で39%、2020年2月で26%(いずれも2019年12月比)の水準となっており、同時期の世界の他の地域と比べても顕著な落ち込みを見せた。
世界の工場である中国の封鎖は、グローバルサプライチェーンに影響を与え、特にハードウェアのスタートアップに深刻な影響を与えている。また、全世界的な消費マインドの後退、ビジネストラベルや商談が行えない状況は、デジタルやリモートを前提にした一部の業態を除き広範な影響を与えている。筆者の周辺には、売上が90%超減少した企業もある。COVID-19影響が急速に世界中に広がった3月以降、COVID-19が世界のスタートアップエコシステムに与える影響が懸念される。
過去の景気後退局面で起こったこと
過去のITバブル崩壊(2000年~2001年)及び世界金融危機(2007年~2009年)では、スタートアップへのVC投資がそれぞれ21.6%、29.3%下落した。また、過去の景気後退局面では、米国のテックIPOの件数が90%下落し、2019年(34件)の水準ですら、2007年の約半分となっており、未だに完全な回復には至っていない。年内の大型IPOが期待されたAirbnbが、翌年にIPOを延期する可能性が指摘されるなど、今回のCOVID-19の環境下でもIPOへの深刻な影響が懸念される。
ピンチをチャンスに
~スタートアップの視点から~
景気後退局面では、キャッシュ効率の良い筋肉質なビジネスに対して投資資金が注がれ、良質なスタートアップが誕生するともいわれる。Google や PayPal は、ドットコムバブルの不況の余波を乗り越え成長し、Airbnb、Square、Stripe は世界金融危機の真っ只中に設立された。50社超のユニコーンが2007年~2009年の金融危機に設立されたとのデータもある。
著名VCであるSequiaキャピタルは、COVID-19を予想できない強い広範な影響をもたらす「ブラック・スワン」であるとして警告し、スタートアップが行うべき対策を“Coronavirus: The Black Swan of 2020”として発表した。同社は、数四半期運営を行う資金を確保し、顧客の消費マインド減退を慎重に予測し、顧客獲得コストの効率化を図り、より効率的効果的な組織運営、投資選択を行うように促している。
COVID-19が根本的に個人の価値観、行動様式、生活、仕事の仕方を変える可能性も指摘されており、未来を見据えた長期的なビジネスモデル構築、モデルチェンジを行うことも選択肢となる。VCが行った調査では、ヘルスケア(特に遠隔診療)、リモートワーク、物流、メンタルヘルス領域のスタートアップへの投資意欲が明らかになっており、COVID-19を成長機会ととらえて成長するスタートアップが誕生することを伺わせる。
スタートアップ投資について ~積極的な投資・アライアンスを~
COVID-19の厳しい環境下では、多くの企業が投資を控えているため、高すぎないValuationで良質なスタートアップに投資をできる可能性がある。過去のデータ上も、VCを含むプライベートファンドの景気後退局面直前での投資パフォーマンスが最低水準となり、景気後退局面での投資パフォーマンスが最高に近い水準となっている。ベンチャーキャピタルへの調査でも、18%のVCが10%超投資金額を増大させ、28%のVCが投資金額を増やすとしており、今こそが投資時期であると考えているVCが一定数いることが伺える。スタートアップが資金と成長機会を求めてている今、積極的に投資やアライアンスを推進していくことが有効であると考える。