7月10日にTechcrunchが開催したMobility Sessionに参加をしてきた。カンファレンスでは、数多くのセッションが行われたが、Robotaxi及びMicromobilityの議論が盛んであった。内容に関しても、量産化、ビジネスとしての経済性などの踏み込んだ議論が行われていたのが、印象的であった。Robotaxiに関しては、①ビジネスの基礎となる自動運転の安全性 ②ビジネスとしての経済合理性も含む実用化に向けたロードマップ が話題になっていたので、この2点を中心にWaymo(Alphabet子会社)とMobileye(Intel子会社)のRobotaxiのアプローチを取り上げる。
Waymoの安全性のアプローチ - 100億マイルのシュミレーション
Waymoからは、CTOのDmitri Dolgov氏が登壇した。シュミレーションベースの走行実験について100億マイルを達成していることを発表するとともに、自動運転の精度向上を達成する上でのシュミレーションの重要性を強調した。自動運転の安全性については、物体を認識する段階を超え、物体と人の相互関係をいかに理解し柔軟に対応できるか(Interaction)がポイントになってきている。これには、様々なパターンを仮想空間上で実験できるシュミレーションが重要であるという。Waymoは、実際の公道実験でも1000万マイルを達成しており、公道の状況をシュミレーション上でよりよく再現できる。公道での実験とシュミレーションの相乗効果、圧倒的な距離により、競争優位を確立できているという自信を見せた。
Mobileyeの安全性のアプローチ - Cameraを中心としたアプローチ
Mobileyeからは、CEOのAmnon Shashua氏が登壇した。MobileyeはADAS(先進運転支援システム)において圧倒的な世界シェアを持つ。Mobileyeは、安全性(Safety)の観点からは、人との組み合わせで、前方監視を中心に衝突防止を行うADASのみで死亡事故0が達成できるが、社会が必要とする車の台数を減らし、移動をより便利にするというTransportation Revolutionを実現する上では、自動運転が必要であると述べた。
運転中の人が不具合をカバーできるADASとは違い、自動運転では失敗が許されない状況であるため、最も運転が上手い人間よりも高い精度が求められており、この水準はADASで求められている水準よりも何倍も厳しいものである。この前提のもと、Amnon 氏は、ADASが得意とする前方のCameraデバイスを中心とした安全性確保のアプローチが自動運転に適用可能かについて、時間軸に応じた2つの見方を示した。
まず、現状のハードウェアやテクノロジーの水準では、自動運転において、Cameraのみで十分な安全性を確保することは難しいとした。これを裏付けるように、Mobileyeは、Cameraが十分に機能しなかった場合のバックアップとして、CameraのみでなくLidarやRaderにより周辺の環境を理解する技術やCameraが動作しなくても他のセンサーだけで自動運転が可能になる技術の開発を行っている。
Cameraのみでの自動運転の将来に関しては、現状の延長線上と異なる考えを示した。CameraとComputer Visionにより自動運転を実現するというTeslaを引き合いに、将来のハードウェア及びソフトウェアの進展を待てば、Cameraのみでの自動運転でも十分に安全性を保てるとの見方も示した。
WaymoのRobotaxiロードマップ
Waymoは、アリゾナ州で昨年末から乗客を乗せたRobotaxiの商用運用を行っていることで知られ、カリフォルニア州当局からもつい先日自動運転車に乗客を乗せる認可を取得した。
Dmitri Dolgov氏は、Robotaxiの普及、量産時期について、UX、テクノロジー、経済性の観点から言及した。UX、テクノロジーの観点から、ジャガーランドローバーのI-PACEとの実証実験で量産化に向けた取り組みを進めているという。センサー、車体、自動運転技術の調整はもちろん、ライドヘイリングサービスを視野に入れた車内スクリーンの洗練化、アプリ改善などを含む、ユーザー体験向上を実現する準備が順調に進んでいるという。
ロボタクシーの量産化についてはLidarを含むセンサーなどによる車体コストが高額であることなどから、経済的にも相当先となるとする声も多いが、Waymoとしては、エコノミクスの観点からも目途がついている状態であるという。安全性の観点からも具体的な時期の明言は避けたものの、リアル及びシミュレーションでの安全性検証を織り交ぜて、自動運転の安全評価指標を構築し、慎重な検討を重ねており、遠くない将来に実現可能であるとした。
IntelのRobotaxiロードマップ
Intelは、来年末までにRobotaxiを完成させるというTeslaが掲げるスケジュールについては懐疑的な見方を示した。Robotaxiの本格普及には時間がかかるとみており、Robotaxiビジネスとは点ではなく、フェーズでとらえるべきとの考え方を示した。
Robotaxiビジネスについては、年間数百億円の長年の投資を正当化するためのロジックが必要であり、ビジネスの本質は車体の商売ではなく、エンドtoエンドでの移動サービスビジネスである述べた。Amnon氏は、「(ユーザーから受け入れられる)ビジネスとして成熟するには数年かかり、その後、センサーやハードウェア及び高精度マップを作製するためのコストが下がり、ビジネスとしての採算が取れるようになり、本格普及フェーズを迎える。」との考えを示した。
安全性において、シュミレーションと走行距離に重点を置くWaymoとCameraを中心としたアプローチのMobileye、Robotaxiについて、量産化の見通しがついているとするWaymoとビジネスの本格化は長期間のフェーズでとらえるべきとするMobileye、各社各様のアプローチを感じながらも、Robotaxi社会が近づいていることを感じさせるカンファレンスであった。