CES : Consumer Electric Show 2020速報

CESとは

CES(Consumer Electric Show)は年初に行われる世界最大のテック見本市である。1967年から米国の消費者技術産業協会(CTA)が開催しており、今年で53回目の開催となる。昨年は約4,500社の企業が展示し、 250以上の会議セッションが行われ、約150カ国から17万5千人以上が参加した。数年前までは家電見本市と呼ばれていたが、2015年ごろから自動車産業の会社が先端技術、CASEに関する展示を行う流れが本格化し、その後各産業がAI, IoTなどに関する展示を行うようになった。全てがコネクテッドになる昨今は業界の垣根を越えて農業、航空、保険業界からも展示が行われ、名実ともに世界最大のテック見本市とされる。本レポートでは、2020年にみどころとなったトピックのうちからいくつかのTopicを紹介する。

本年は約30年ぶりにAppleが参加した。新しいプロダクトの展示は行わず、個人データの取り扱いに関するセッションに登壇した。2018年の3月にFacebookの個人情報の不適切な使用の可能性に関する問題提起が行われ、2018年5月のGDPR適用が拍車をかけ、昨今では個人情報に関するテックジャイアントのデータ収集の在り方が注目を集めている。その流れを受けCESでも、個人情報に該当するデータ収集に関する議論がなされた。Appleは一貫して個人情報を自社以外のサービスや目的外には使用しない姿勢を鮮明に打ち出し、法的な規制の必要性を示唆した。全てがつながる時代の個人情報管理の適切性への関心の高まりを感じさせるCESとなった。

コンセプトチェンジ

近年のCESでは、自社の取り組む領域自体をドラスティックに変更するコンセプトチェンジが話題となる。2016年にFordが「Auto Company(自動車会社)」から「Mobility Company(移動サービス会社)」に転換することを宣言して以降、CESの機会を活用して自らの領域変革を掲げる企業が相次いでいる。2018年1月8日には、プレスカンファレンスに豊田章男氏が登壇し、自らの言葉で「トヨタはモビリティカンパニーへと変革する」と語り、「e-Palette」のコンセプトを発表した。それからわずか2年の今年、トヨタはスマートシティへと舵を切った。Woven Cityの構想を発表し、静岡県裾野市での、自動運転、MaaS、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム、AIを導入・検証するコネクテッドシティの構想を提示した。自らはモビリティの会社では無く社会のコネクテッドシティの会社であることを印象付けた。都市設計は、著名な建築家のビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)のCEOインゲルス氏が担当する。インゲルス氏は、レゴのテーマパーク(レゴハウス)などの作品を手掛けており、全く新しいコンセプトを具現化することで知られる。トヨタのコネクテッドシティが、今までに無い全く新しいコンセプトの街の在り方を提示できる可能性もあり、注目が集まる。トヨタは住宅事業の統合を決めたパナソニックなど世界の企業を巻き込み、自動運転車やコネクテッドホームが相互に連携する街の在り方に想いを馳せる。

航空業界ではDeltaが初めて展示を行い話題を集めた。Parallel RealityというMisapplied Sciences社のテクノロジーを活用し、同じディスプレイを違った角度から見ると個々人に最適化されるディスプレイのコンセプトを提示した。(図参照) 昨今、単一の音響システムを違う角度から別の人が聞くと全く異なるサウンドが聞こえるテクノロジーも現実のものとなっており、VR,ARを含め、空港内で個人に完全に最適化された空間演出の可能性が広がることを感じさせた。

出典:CES展示

SONYは、「aibo」の開発チームが中心となって手掛けた自動運転車のコンセプトカーVision-Sを発表。自らが持つ音響技術などを活用した車内環境充実も含めた「常に顧客に最適化するスマホのようなクルマ」の提案を具現化した。

Level 2の自動走行の電気自動車をベースに、自動車部品大手のカナダのマグナ・インターナショナル社に車体製造を委託、先端となる通信やConnected Carの技術にはBlackBerry、車体内外の画像センサーにはNVIDIAやQualcommの技術を採用し、スマホのように社内の環境が個人に最適化され随時更新される未来の車を展示した。

5G

本年は昨年から展示が本格化した5Gがより具体的になり話題をさらうとの事前情報もあった。AT&Tが、メディカル用途を焦点に5Gサービスの実例を展示し、4Gとの通信速度比較や、遅延が許されない遠隔施術支援や緊急救急車両通信などを紹介した。また、5Gでのサービスが先行する韓国メーカーは、グループアイドルグループが複数台のカメラやアングルをもとに即時のコンテンツ配信が可能となり、視聴者が好きな画面を選択できる世界観を提示した。昨年から具体的なユースケースの展示での進展は見られたが、実用事例の展示という観点ではやや物足りなさが残った。2月に行われるMWCに発表の5G展示の取り組み発表を温存する会社が多いとの情報も流れ、CESでの5G関連の展示は翌年以降に持ち越された印象である。

全体所感

本年のCESでは、個別のテクノロジーではSleepTechが注目を集めるなど各分野での技術的な進展が感じられた。AIやIoTがより具体的なユースケースで展示される機会が増えており、全てがつながる世界での具体的なユースケース、可能性が感じられるCESであった。

車の会社であったトヨタが車を超えた街レベルでの未来のコンセプトを提示し、本来車の会社ではないSONYが車の会社であることを強調する本年のCESは、業界の垣根がなくなっていることも痛切に感じる機会となった。