– 判例で学ぶ注目の米国法- 萬弁護士の法律寺子屋 ~第127回~ 米国のM&A市場と戦略~最新動向と概要~

M&A市場ランドスケープ*

2021年の世界のM&A(企業合弁・買収)は、金融市場と株価の大きな変動、債務の上昇、サプライチェーンの混乱などが落ち着きを見せる気配がないにもかかわらず過去最高となった。世界市場でのM&Aの取引総額は、5.9兆USドルと増加し、コロナ禍の影響が長引き、ロシア・ウクライナ戦争が続く中においても、過去10年の記録を更新した。また、M&Aの件数は34,128件で、2020年より0.4%増加した。米国市場においてもM&Aは活発で、M&A取引総額は、2.9兆USドル(前年比+55%)となり、過去の記録を更新した。

その一方で、2022年は、M&Aのための投資計画と実行を大きく左右するコストとリスクの要因となる経営課題も存在する。例えば、米国では、米国連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board)による金利の上昇、インフレ率・物価・原油・エネルギーコストの上昇、そして、バイデン大統領下の規制やそれに基づく取り締まりを強化する状況がすでに始まっている。加えて、昨年11月に英国北部グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)を契機に、企業、投資会社、金融機関はESG(環境・社会・ガバナンス)を取り入れた包括的なM&A戦略を策定することが期待されている。以下にて一般的なM&Aの概要と流れを解説しよう。

買収理由

M&Aを進める理由は、事業成長と売上拡大である。具体的には、新製品や他市場への参入、新技術や主要人材の獲得、知財権の確保、生産力の増強、節税対策等が挙げられる。また、最近ではグループ内の事業再編やノンコア事業の売却、市場での生き残りをかけた企業統合等も増えている。

ターゲット(対象)企業の確保

適切なターゲットを確保するためには、できるだけ多くの情報を遅滞なく収集することが重要である。シリコンバレーの企業はターゲット候補の情報を瞬時に交換しており、日本企業には、地元のM&Aブティック、VC、投資銀行、コンサルタント、会計事務所や法律事務所等の外部専門家との繋がりが重要になる。

ターゲット選定には時間がかかるが、M&Aが活発な米国においては、時間をかけて交渉しているうちに他の企業にターゲットを奪われてしまうことが多い。時機を逸せず判断を行うためには、決定権を持つ責任者が初期段階からテクノロジー、製品、営業、財務、人事の各分野の責任者から成る買収企画チームに参加し、外部専門家やアドバイザー、コンサルタントの協力を得て時宜にかなった賢明な判断を行うべきである。

ターゲットを確定後、初期デューデリを開始し、管理職のパフォーマンス、保有テクノロジーの評価、成長可能性、財務諸表や資本構成の精査を行い、企業文化の相性等を評価する。 

ディール・ストラクチャーの構築

両当事者が買収意志を確認した時点で、買手は弁護士、会計士、M&Aアドバイザーと相談しディール・ストラクチャーを構築する。シリコンバレーのディールは、一般的に次のような手続きを含む:①秘密保持契約書(NDA)の締結、② 法的拘束力の無い基本合意書(LOI)と契約条項の内容交渉と締結、③デューデリ(ビジネス、法務、財務、税務、知財、人事、IT、環境リスク等)、④最終譲渡契約書の交渉と締結、⑤クロージング。M&Aフローは状況により異なり、シリコンバレーのスタートアップ企業の買収では、通常2~3ヵ月以内にクロージングするが、大規模なM&Aの場合は半年以上かかることもある。 

M&A後の統合

M&A後の統合プロセスは複雑かつ時間がかかるため、難局はクロージングの後に起こり易い。統合プロセスは、人事、企業文化、テクノロジー、IT、社内システム、知財、財務、顧客等の多岐の面にわたり、事前の計画が十分に練られていないと、従業員の士気が下がり、業績に悪影響を及ぼし兼ねない。統合計画を綿密に立て、従業員に明瞭な情報を提供することが、真の意味でM&Aを成功させるためにも重要である。  

(参考文献)Mergermarket dealmakers 2022:  M&A market update (Baker Tilly International); KPMG Advisory:  2021 was a blowout year for M&A – 2022 could be even bigger (Philip J. Isom)

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に関する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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