– 判例で学ぶ注目の米国法- 萬弁護士の法律寺子屋 ~第128回~取締役の多様性を拡大する州法のアップデート ~過小評価されているコミュニティ~~

- 判例で学ぶ注目の米国法- 萬弁護士の法律寺子屋

人種差別やその他の差別・偏見による社会的問題を改善するために、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が2020年9月30日に、社会的に過小評価されているコミュニティ(Underrepresented Community)(以下「過小評価コミュニティ」)の取締役選任を義務付ける州法(以下「AB979」)に署名したことは以前にも取り上げた。しかし、2022年4月1日、ロサンゼルス郡上級裁判所が、このAB979は州憲法に違反しているという原告側の主張を受け入れ、同法の適用に歯止めがかかった。被告であるカリフォルニア州側の異議の申し立ては却下され、上訴するかどうかは明確ではない。

法律の背景と概要

過小評価コミュニティとは、社会を構成する人々の多様性が適切に反映されていない人々のことを指し、黒人、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系、ラテン系、アジア系、太平洋諸島系、ネイティブアメリカン、ハワイ先住民、アラスカ先住民、またはゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーを自称する人々が含まれる。AB979は、カリフォルニア州の上場企業に、これらの過小評価コミュニティからの取締役選任を義務付けるものである。(同法では、取締役が過小評価コミュニティに属するかは取締役自身の認識によって判断されるとしている。)

AB979は、カリフォルニア州会社法第301.4条および第2115.6条として追加され、米国証券取引委員会に提出する上場企業の年次報告書であるForm 10-Kに記載されている主たる事業所(principal executive office)がカリフォルニア州にある企業が対象となる。つまり、デラウエア州など別の州で設立された企業であっても、その主たる事業所がカリフォルニア州にある場合には、AB979の適用対象になるので注意が必要である。同法では、まず2021年末までに過小評価コミュニティから1名以上の取締役を選任することが適用企業に義務付けられ、その後2022年末までには、取締役総数が9名以上の企業では過小評価コミュニティの取締役3名以上の選任、取締役総数が4名以上9名未満の企業では過小評価コミュニティの取締役2名以上の選任が義務付けられる。また、違反企業には、初回で10万ドル、2回目以降は30万ドルの罰金が科せられるとされている。

原告の憲法違反の主張についての概要

2020年10月、保守系の団体であるJudicial Watchが、 納税者を代理してAB979の運用にかかわる違法な支出等の差し止めを求める訴えを提起した。原告の主張の概要は次の通りであった。

  • 州憲法違反  会社の取締役に過小評価コミュニティに属する者を置くことを求める法的な割当て制は、特定の属性を持つ候補者を優遇することになり、その属性を持たない候補者に対して差別をすることになる。よって、AB979は、カリフォルニア州憲法下の州民平等保護条項に違反しているという主張。今回の判決は、この主張を受け入れたことになる。
  • 州会社法及び判例法違反取締役の選任、並びに企業のその他の内部関係に関する事項は、その企業が設立された州の会社法と判例法が適用されるべきであり、その他の州の法律は適用されるべきではない。よって、カリフォルニア州以外の州で設立された企業にAB979の適用を強制することは、この内部関係事項についての判例法に反するという主張。今回の判決では、この主張には言及しなかった。

考察

今回の判決とは別に、カリフォルニア州で2018年9月に成立し、2019年1月に施行された女性取締役の選任を義務付ける州法(以下「SB826」)についても、同じ原告が同様の主張で同法が無効であると主張する裁判が進められている。その一方で、報道によると、AB979とSB826の対象となるカリフォルニア州の上場企業は、現在のところ両方の法律を積極的に遵守していて、これまで罰金を科せられた企業はないようだ。

この一連の訴訟の帰趨は注視すべきではあるものの、訴訟の結果にかかわらず、過小評価コミュニティや女性取締役の選任により、企業価値が向上することに繋がるという調査報告があるのは事実だ。多様な視点・価値観を受容することで、イノベーションが推進され、その結果、企業競争力や社会的評価が向上するのだという。企業はこのようなデータを考慮した上で、取締役の選任を検討することが重要になってくるだろう。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に関する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

Yorozu Law Groupは、サンフランシスコに拠点を置く国際法律事務所で、企業法務、国際税務、M&A/戦略的提携、ライセンシング、国際商取引、雇用法において日本語と英語で法務サービスを提供している。© Yorozu Law Group

Yorozu LAW GROUP Webサイト
※画像をクリックするとYorozu LAW GROUP Webサイトへのリンクが開きます。