アーティスト、そしてプログラマーとして様々な作品を手がけている真鍋大度さん。今回、サンフランシスコの GRAY AREA で5月に公演されたステージ作品、 “discrete figures 2019” について、J weekly のスタッフがお話を伺いました。
discrete figures 2019
Rhizomatiks Research x ELEVENPLAY x Kyle McDonald
”本作は、身体表現と数学の関係の追求から生まれた。それはつまり、数学によって生み出された身体と生身の身体の関わりについて描いたダンス作品である。” – 真鍋大度
Rhizomatiks Research “discrete figures”
数学者アラン・チューリングと、彼が考案した初期のコンピュータ、チューリングマシンの関係性を土台に、AIと人間、精神と身体といった、永らく語られ続けているテーマを現代のテクノロジーを用いて刺激的な舞台作品として表現。日本、アメリカ、スペインなど数カ国で上演。サンフランシスコでは、2018年4月に続き2度目の公演で、2019年5月に Gray Area で上演された。 第22回文化庁メディア芸術祭アート部門で優秀賞を受賞。
ー『discrete figures 』というタイトルの由来はなんでしょうか
Discrete(不連続の)とDiscreet(慎重な・用心深い)とをかけているんですが、Discreteは数学でよく使われる言葉で、もう片方は人間の振る舞いに関する言葉ですね。そしてFigureにも、人間のポーズという意味と、数学で使う図形という意味があって、今回の作品の中身自体が数学と身体ということなので、人間に対しても、数学に対しても使える言葉ということで、言葉遊びで作ったという感じです。
ー舞台の構想は皆さんで決めたのでしょうか
最初のコンセプトを決める段階では特にブレストはしないですね。今回は数学と身体、その発展をテーマにすること、そしてタイトルは私が決めていたので、その後具体的にステージの作品に落とし込む作業はMIKIKOさん(演出振付家。ELEVENPLAY主宰。本作では、ステージディレクションとコレオグラファーを担当)が中心になって設計をして、そこから各自、エンジニアとか、ダンサーがどういうものが作れるか、と考えて仕上げて行く感じですね。
ー今回の舞台では、アイディアの多くが実現されましたか
私たちの作る作品の場合、AI関係の新しいアルゴリズムとかライブラリが出来たら、それで出来る表現も増えるので、毎回公演をやる度に少しずつアップデートしています。2年前に「こんな事が出来たら凄いよね」と言っていたことが、1年後に普通に出来ていたり。
ーニューヨークでも公演されてますが、ベイエリアとの違いは感じますか
それは改めてサンフランシスコに来て思いましたね。シアターの特性にも依りますが、NYはもっとエンタメとして、ダンスシアターも商業ベースでフォーマットもコミュニティーも成立していますね。MIKIKOさんはNYの方が良いかもしれませんが、私はベイエリアの方が肌に合うかもしれません。テクニカルなことに興味ある人がやはり凄く多くて、今回の舞台と関係ない質問も沢山されて(笑)。グーグル、アップル、Open AI、Leap Motionとかの人達が普通に公演を見に来てくれるんですよね。近況報告とか、情報交換みたいな感じとかもあります。NYもあると思いますが、数が違いますね。
ー「身体」をテーマとした作品が多いのはなぜでしょうか
もちろん、身体に関係なく、ロボットやドローンを操作してショーも作れるのですが、結局そこに人とか身体が入っていないと、ガジェットショーのようになってしまう。お客さんも多分そうですが、映像やロボット、ドローンなどが、人と関係性を持つことで、自分ごととしても興味を持って見ることができると思うんですよね。それと、初期に私が自分の身体を使って色々作っていたのは、それが一番手っ取り早かったというのと、やはり他の人のものより、自分の頭の中がそもそもどうなっているのか気になりますよね、誰でもそうだと思うんですけど。
ー真鍋さんはインタラクティブな作品(コンピュータとセンサーなどを使い、動きや熱、音などの情報に対して反応し、変化を見せる作品)を多く作っていますが、観客と作品が直に接するというより、ステージや映像の出演者と真鍋さんの作品が接するのを観客に見せる、というのが多い印象を受けていますが、それは意図的でしょうか
そうですね、10年から15年ほど前は、お客さんに触ってもらうような作品を作っていたのですが、お客さんの場合、例えば(センサーやカメラに)手を振るだけとか、作品への接し方がワンパターンになりがちで、ダンサーがちゃんと振り付けて入力データを作るのとは最終的なアウトプット(絵や映像など)がたいぶ違いますよね。だから2010年頃からは、商業ではお客さんベースのものも作りますが、アート作品としてはダンサーのデータを使ってやるように変わってきています。
ーインタラクティブ系以外の作品で惹かれたものはありますか
最近だと私もインタラクティブなものとか、確かにそんなにもう・・・、昔は興味があったことが多かったのですが。最近肉眼で見て面白かったのは、少し前になりますけど、Kimchi and Chipsというアートユニットが作っていた立体映像作品とか、今回の作品で一緒に仕事をした Kyle McDonaldのミラーボールを使った作品で、ふつうミラーボールに光を当てると光があちこち飛びますが、それを計算して思い通りの絵を作るというのが、面白いと思いますね。
いまベータテスト的にアートリサーチというページを作っているんですが、影響を受けたり、見ている作品は、それはすごい数になってくるじゃないですか。だからきちんとまとめて、後で振り返ることができるように作っています。
ーダンスの練習をしたり、歴史を調べたりもしているそうですね
ダンスの練習は・・・制作に役立つのもありますが、単純に楽しいですね(笑)。歴史に関しては、ダンスの歴史だと紀元前まで行ってしまいますが、例えば、映像とダンスだと20世紀前半、インタラクティブだと1970年代までしか遡ることができず、じゃあ誰がルーツなのか、60年代終わりのマイロン・クルーガーという人だったのか、とか探るのが楽しいですね。これはヒップホップの元ネタ探しに近いですね。ヒップホップも、昔のジャズの曲とか、例えば、ジェームズ・ブラウンの曲で使われたドラムの音が、この曲でも使われてる!みたいな、そういうちょっとオタクな楽しみ方がだいぶ昔から好きでしたね。
ー真鍋さんは試験作品やアイディアなど色々公開していますね
公開するのに適していないな、という情報は公開しないこともあります。守秘義務が絡むものや、私が自分のためだけに書いてしまっており、後で他の人が見ても良くわからないようなものなど。
ー今興味があることや次にやりたい事は何ですか
京都大学の神谷之康先生とやっているような、リアルなアートとサイエンスの融合にチャレンジしていきたいですね。
ー新しいテクノロジーに対して、怖いなと思うことはありますか
私がこういう特殊な環境でやってるものは、すぐに危険なものにはならないと思うんですが、一般の方たちが日常的に使っているテクノロジーの方が危ないものが多いかなとは思いますね。ツイッターとかフェイスブックなどのSNSが、表示を最適化して人が中毒になっていくアルゴリズムを作っていたり、お金もデータ数も集まっているので、ビジネスとして巨大すぎるから真っ向から抗うのが難しい問題もありますよね。ですがSNSは常にチェックしています。フェイズブック、そうですねえ・・・そろそろやめ時かなとは思ってるんですけど(笑)。メールはもうほとんど見ないですね。メールよりも、ツイッターとかインスタグラムのダイレクトメッセージとかをくれる人の方が多いので。
ーインスタグラムで、ラーメン屋さんに行ってる写真を上げてましたね
そうですねえ・・・。けっこう日本食がすぐ恋しくなっちゃうんです(笑)。
真鍋 大度(まなべ だいと)
数学とテクノロジーを駆使し、舞台、映像、音楽など、様々なジャンルの作品を制作。1976年東京都出身、東京理科大学理学部数学科卒業後、電機メーカーでシステムエンジニアとして勤務。サラリーマン生活を経た後、2002年IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)へ進学。プログラミングを用いたメディアアート制作を学び、2006年には株式会社Rhizomatiks(ライゾマティクス)を設立。2008年にyoutubeで公開した “electric stimulus to face” が世界中で話題となり、さらにPerfumeのステージ演出を手がけたことから知名度が上がる。2014年、アップルMac誕生30周年キャンペーンでは、キーパーソン11人の内の1人に選出され、近年ではビョークのミュージックビデオ、2016年リオデジャネイロオリンピック閉会式などでも演出、技術面で活躍している。