システムインテグレーター流シリコンバレーとの付き合い方

牛原祥太 / NEC Corporation of America Business Development Manager

NECネッツエスアイについて

私の勤務するNECネッツエスアイは、1953年にNECグループのネットワーク通信工事及びシステムインテグレーション(SI)における中核会社として設立されました。現在はコミュニケーション・システムインテグレーターとして、企業、通信事業者、官公庁や社会インフラ事業者といった様々なお客様に対し、ICT(情報通信技術)システムに関する企画・コンサルティング、設計・構築および日本全国にわたるサービス拠点による24/7保守・運用、監視サービスまで一貫して提供しています。最近では、ICTとオフィスの空間設計とを融合することでコミュニケーションを活性化し、創造性を高める新たな働き方としてトータルオフィスソリューションなど提供しています。

システムインテグレーターに訪れる未来

個人的な見解ですが、システムインテグレーター(SIer)とは、ユーザー企業の求める「理想のシステム」とそれを実現するための「社内ITリテラシー」とのギャップを埋める役割を担っていると思っています。しかし昨今では、ユーザー企業側がエンジニアを抱え、自社システムを自ら開発するようになってきています。更にはメーカー企業の成長によってハードウェアのインテリジェンスによって設計・構築が簡素化されてきています。この先AIが更に進化することを考えると、そういった作業は全て自動化され、ユーザー企業がシステムインテグレーターを必要としない時代が来ることは容易に想像できるでしょう。

これは我々のもうひとつの主力事業である保守サポートの分野においても同じことが言えます。極端な話ですが、なんでもシェアリングの時代になってきている今、フリーランスや企業に所属しながらも、空いた時間にオンデマンドで困った人をサポートする事が可能になれば、コストをかけて大企業に保守サポートを依頼する必要はなくなるでしょう。数年後に突然ゼロになるとは思いませんが、既存のSI事業、保守サポートの需要は減少の一途を辿っていくのは間違いないと考えています。そのため我々はこれからの数年間で変化していくことが求められていると思います。

シリコンバレーでのチャレンジ

NECネッツエスアイは2012年からシリコンバレーでの活動を開始しました。当初は主力事業であるSIの強化のため、性能・機能の優れたネットワーク機器の発掘を目的として活動していました。私は同ミッションを与えられたまま、2015年より2代目駐在員としてこちらに赴任することになりました。様々なテックイベントに参加してスタートアップと接触したり、投資家やVCの方、大手日系企業の方々と接していく中で、前途した既存事業に対する危機感がつのると同時に、新しいテクノロジーに触れるワクワク感が増していきました。

初めはちょっとしたアピールのつもりで、毎週開催していた報告会の資料に徐々に最新テクノロジーに関するスタートアップの内容を盛り込んでいました。当初私が所属していたネットワーク事業本部では、既存事業と関係ないということで相手にされませんでした。とにかく刷り込みだと思い、サブリミナル効果を狙ってたんですけどね(笑)

テーマごとに報告先を変え全社に対する活動にすれば、誰か興味を持ってもらえるのではないかと考え、赴任から半年後に所属を新事業開発部に変更しました。活動内容も「オープンイノベーションを活用した新規事業開発」ということで、パートナー企業の調査・発掘活動に切り替えることにしました。結果として現在までの約3年間で4社のスタートアップとのパートナー契約を締結、更に2018年にはCVCファンドを設立、3社への投資を実現しました。パートナー契約としては、北米のホテルで活躍しているデリバリーロボットの開発を行うSavioke社や、ビデオカンファレンス業界で物凄い勢いでシェアを伸ばしているZoom社、AIチャットボットとエンジニアマッチングによるサポートサービスを提供するBoomtown Network社など、北米で活躍する企業とのパートナリングに成功しました。

これからのSI企業の活動

長年シリコンバレーで活躍されている企業の方々にとっては小さな一歩に見えると思いますが、これらのスタートアップとの連携は我々にとって、ロボットインテグレーターという新分野へのチャレンジ(Savioke社との連携)、社内の成長事業であるオフィスソリューションの強化及び働き方改革の促進(Zoom社との連携)新しい形のサポートサービスの実現に向けた取り組み(Boomtown Network社との連携)といった新たな価値があると考えています。モノや形が変わると、新しいSIの形が必要となるのではいかと思います。ユーザー企業側からすると、海外プロダクトを安心して導入できるサポートを、海外ベンダーからするとグローバル展開時の現地サポートが必要となるので、そこを担うのがこれからのSI企業の役割ではないかと思います。海外ベンダーと日本企業を繋ぐ架け橋としてSI企業の新たなチャレンジにこれからも貢献していきたいです。

牛原祥太
NEC Corporation of America Business Development Manager 2015年11月よりオープンイノベーションを活用した新規事業開発のため、最新のテック系ベンチャー企業への投資、パートナリングを推進している。