下田裕和 さん / World Economic Forum 第四次産業革命センター

第4次産業革命で世界の社会課題を解決シンクタンクからDo タンクへ

経済産業省時代について

3年前のことですがとても昔のことのように思います。経済産業省時代は、IoT、モビリティ、ヘルスケアなどの分野でイノベーション推進を担当していまし た。当時、日本ではSociety5.0(狩猟社会1.0→農耕社会2.0→工業社会3.0→情報社会4.0に続く新たな社会作りを目指すこと)について 議論されていて、新しい技術をどう社会の課題解決に役立てるかを考えていました。例えば、国土交通省や警察庁と自動運転の規制のあり方や、厚生労働省と病 気の早期発見に生活データを活用する方法などを検討していました。新たなビジネスは従来の産業の壁を越えて広がるので、縦割りで制度を運用している役所に は難しい挑戦でした。

一昨年夏にJETROサンフランシスコに赴任されましたが、こちらでの業務内容は?

制度を作って規制を緩和しても、実際にビジネスが生まれ、成長するかは別の話です。私はシリコンバレーに赴任し、個々の企業の海外進出を支援することにな りました。そこには、まさに日本企業が素晴らしい技術を持っているのにビジネスを作ることができていない現場がありました。私は、日本と大きく異なるシリ コンバレーの商習慣を学び、企業にわかりやすく伝えることに力を入れました。私ができるのはイントロ部分なので、ローカルの方々(宝です!)から具体的な ビジネスのアドバイスが得られるプログラムも回していました。

シリコンバレーに来て感じたギャップなどありますか?

山ほど(笑)。まず自分の無力さを感じました。日本の役人なんて誰も相手にしてくれません。だってお金にならないですもの。結局、組織ではなく個人として 認められないとダメなんです。赴任後に自分の価値をゼロから再設計することになるわけですが、同時に、世界視点でのビジネス競争の現場を知り、日本国内の 議論がどれほど未熟だったかを痛感しました。そんな折、素晴らしい同志(パナソニック森俊彦氏、トーマツベンチャーサポート木村将之氏、元在サンフランシ スコ総領事館井上友貴氏)に出会い、シリコンバレーD-Labという有志活動も開始しました。この活動は、シリコンバレーの有識者の方々の知見を頂いて、 イノベーションで生まれる危機とチャンス、変化の本質を伝え、日本側に次のアクションを期待するものです。

2017年3月に世界経済フォーラムへ出向されていますが、どんな組織ですか?

世界経済フォーラムは、ダボス会議などを通じて世界中のトップクラスの企業、学者、政府、NPOなどを繋ぎ、貧困、健康、地球温暖化といった課題の解決を 目指す機関です。本部はスイスのジュネーブです。第4次産業革命と呼ばれるイノベーションがグローバルな課題を解決する鍵になると考え、昨年3月サンフラ ンシスコに新センターを設立しました。着目したのは、技術と規制のギャップです。新しい技術に規制当局の対応が遅れているのは、日本だけではなく世界共通 です。「シンクタンクからDoタンクへ」の掛け声の下、まずやってみる、実際のベネフィットとリスクを見せてみる、というシリコンバレー流のアプローチを 始めました。私が参加した当初は数名でしたが、今は約60名が働いています。モビリティ、ドローン、個別化医療、環境、ブロックチェーン、AIといった分 野ごとにチームを作り、世界を舞台にモデル実証プロジェクトを実施していきます。

プレシディオにある世界経済フォーラム / 中国・天津で行われたサマーダボス会議

具体的にどのようなプロジェクトを実施しているのですか?

ドローンを例に取って話してみましょう。ドローンの技術はまだ発展途上で、どの国でも住宅地の上空などを飛ばすための安全基準が整備されていません。ド ローンが住宅地に落ちたら大事故になりかねないので、当然規制当局は慎重です。一方で、ルワンダという国では、地方病院に新鮮な血液や高価な薬を備えてお らず、急患が来た際には中央病院から輸送するので、多くの妊婦などが亡くなっています。一刻も早くドローンを使って命を救いたいと考えたルワンダ政府は、 世界経済フォーラムと一緒に法改正を行い、ドローンの活用を開始しました。いち早く社会に導入したルワンダの経験は、世界の有識者やメディアに共有され、 合理的な世論を形成し、各国で規制当局の検討を進めることが期待されます。

先日、中国・天津で行われたサマーダボス会議 今後の活動に関して
イノベーションを社会に取り入れる際には、皆で「先の見えないリスク」を受け入れなければいけません。日本の苦手科目です。このままではイノベーションを 受け入れることもビジネスにすることもできずに沈没します。強い危機感の下、本年7月に同フォーラムの日本センターを開設しました。世界の力を使って新鮮 な風を送り続け、企業も国も国民もチャレンジできる環境を作っていく予定です。少しでもベイエリアの方々のサポートとなれば幸いです。

下田裕和
1999年 東京工業大学工学部電子物理工学科卒
1999年 経済産業省入省 (IT、サイバーセキュリティ、バイオ、ヘルスケア等の産業推進)
2016年 JETROサンフランシスコ次長着任
2017年
WEF第4次産業革命センターフェロー兼任