Innovator & Innovationsインタビュー / 創世訊聯科技(深圳)有限公司 創業者兼董事總經理 藤岡 淳一氏 東京大学社会科学研究所准教授 伊藤 亜聖氏

藤岡氏、伊藤氏と深圳の関係

藤岡氏:専門学校卒業後、派遣会社に就職。ソニー等の工場で電子製品の製造に携わる。2001年、香港系ベンチャー企業にヘッドハンティングされ、転職早々に台湾行きを命じられる。この頃から深圳の製造業と関わりを持つようになり、その後当会社の黒字倒産、社長の蒸発などの苦難を乗り越え、「ハードウェアのシリコンバレー」とまで呼ばれるようになった深圳の変遷と共に歩み自らを変化させてきた。2007年にデジタル家電企業を設立し、2011年にはJENESISを創業。現在は同社深圳工場で日本企業向けIT機器やスタートアップ向けのIoTデバイスの製造受託に日々腕を振るっている。

伊藤氏:学生時代から中国経済に興味を持ち、2度の中国留学を含めて過去10年あまり中国経済の研究に従事している。現在、東京大学社会科学研究所准教授。中国経済の構造改革やイノベーションを研究テーマとし、現在新興企業の拠点となった深圳大学中国経済特区研究センター訪問研究として在外研究を行った(2017年度)。

藤岡 淳一氏 / 伊藤 亜聖

深圳の製造現場から見えてきた実態

JENESIS(SHENZHEN)CO.,LTDは広東省深圳市のサプライチェーンを活用した EMS(電子機器受託製造業)である。「ハードウェアのシリコンバレー」とも呼ばれる深圳に形成されたエコシステムを活用し、IT機器端末の製造を手掛けてきた。最近ではソースネクスト社企画・開発のAI通訳機「POCKETALK」、日本交通系列で日本最大級の配車アプリを開発・運営するJapan Taxiとの共同開発によるキャッシュレス決済機能を搭載したタクシー専用サイネージタブレット端末を製造。イベントでは製造現場最前線からの知見を藤岡氏より報告し、その上で、現地中国で経営をしていて感じられる点を議論する。

ポイントは深圳の圧倒的なスピード感と発想の違いである。日本は問題が起こる前に予測し発生を未然に防ぐが、中国ではまず突進して問題が起こってから考える。IT製品分野ではソフトウェアに限らずハードウェアでも、製造企業の集積と部品の共通化により問題発生率自体が激減した。結果として過去のようにはあまり問題も起きない状況となっている。深圳ではハードウェア開発が既に昨今のOSやFWで動作する時代から始まっているので、ハードウェアもアプリの感覚でそもそも発売後にFOTAを使って頻繁にアップデートさせることに抵抗がない。

これに対して日本企業は設計開発が聖域で、なおかつ知的財産を重視する為、コア技術を外注することに抵抗がある。特に品質保証部分において時間を掛けて100点を取りに行く。深圳の発想と比較すると、Detailの為に更に1年掛けるか、或いはTime to Marketでまず市場に投入し是非を問うか、という差である。こうした開発スピードの差を日本はどう埋めていくのかが問われている。

中国のデジタル化とIoT社会化とは

中国は現在、世界最大の巨大なるIoT実験室となっており、キャッシュレスでの少額決済を可能としたモバイル決済は、新たなインフラとして様々なIoTを生み出している。産業用IoTの領域ではアリババやテンセントがクラウドサービスを提供しているほか、華為技術がIoTソリューションのマーケットプレースを展開。ときには権威主義的体制も集権的なデータ管理を加速させている。

イベントでは、中国のIoT産業のなかでも、民営企業を中心に、導入単価が安く、またシステムの調整コストが安いという「軽い」アプローチが顕著に観察さされていることに注目し、伊藤氏からご報告いただく。こうしたアプローチは個別のサービスにとどまり、「コンシューマー領域にとどまる」、「儲からない」、「断片的なデータにとどまる」という見方もあり得る。たしかに自転車のシェアサイクル事業では、中国で活発な参入が生じたものの、2018年末までに主要企業であったOfoの事業継続が危ぶまれるなど、継続性に欠ける事例も見られる。しかし中国の「軽いIoT」が断片的で、部分的なソリューションにとどまるとも限らない。むしろそれを後付けで統合してしまうダイナミックな変化も生じつつある。

このように中国を「IoT実験室」と見立てると、そこでは成功も失敗も含めた数多くの試行錯誤が行われ、教訓に満ちている。日本のIoT社会化を検討するうえでも、中国での動向も踏まえたうえでの経営がベストプラクティスになるはずである。

シリコンバレー駐在日本企業の方々へのメッセージ

大前提として日本とは見方が180度違うのが面白い点です。日本の大手メーカーはどこかに課題が無いか、リスクが無いかを探す一方で、深圳の企業はできる方法を探します。深圳では、契約、商談における前置きがほぼなく、現金着金主義ですぐ実行に移すため、本当にスピード感があります。日本企業には、このスピード感を是非利用して欲しいと思っています。IoTの製品は、とにかく早く市場に出してユーザーからデータとフィードバックを集めることが大事。世界的最も盛んに、IoTサービス構想、コンセプト設計を行うシリコンバレーにいる日本企業が、深圳のスピード感のあるハードウェア開発の力を活用できる可能性を感じています。外と外(日本企業から外に出ているシリコンバレーと深圳の動ける人同士)で世の中を動かすことができるよう、交流できればと思っています。

藤岡氏、伊藤氏のお話の続きは以下「Innovator & Innovations」イベントにてお話いただきます。

「深圳(シンセン)の製造現場最前線と中国IoT社会の本質を探る」
日時:2月5日(火)
18:00開場 18:30-19:20講演
19:30-20:30 パネルディスカッション
場所:Plug & Play 2F Game room (440 N Wolfe Rd, Sunnyvale, CA 94085)

藤岡 淳一(ふじおか じゅんいち)
株式会社ジェネシスホールディング代表取締役社長、創世訊聯科技(深圳)有限公司 董事總經理。ソースネクスト株式会社技術顧問、株式会社ピーバンドットコム戦略顧問。その他KDDI∞Labo 社外ハードウェアアドバイザーや経済産業省スタートアップファクトリーのアドバイザーを兼務。2011年に中国・広東省深圳市で起業し、現在は日本企業のICT・IoT製品の製造受託に取り組む。そのかたわら、スタートアップ企業の量産化支援を手がけ、案件相談や支援要請が殺到している。ニコニコ技術部深圳コミュニティ運営等を通じ日本のメイカー、起業家を支援。深圳のハードウェアサプライチェーン&エコシステムを活用した日本向け製造案件の第一人者として、多くの日系企業や政府関係者から信頼を集めている。著書に『「ハードウェアのシリコンバレー深圳」に学ぶ』(インプレスR&D、2017年)。

伊藤 亜聖(いとう あせい)
東京大学社会科学研究所准教授。慶應義塾大学経済学部を卒業し、大学院時代に中国人民大学(北京)、中山大学(広州)に滞在し中国経済について研究。研究内容は、中国の産業発展や中国の対外直接投資活動。著書に『現代中国の産業集積 「世界の工場」とボトムアップ型経済発展』(名古屋大学出版会、2015年)、『中国ドローン産業発展報告 2017』(東京大学社会科学研究所、2017年)等。深圳大学中国経済特区研究センター訪問研究員(2017年度)。

コーディネーター: 森 俊彦 (もり としひこ)
パナソニック株式会社(Panasonic Automotive Systems Company of America)
シリコンバレーでB2B車載新規事業開発に従事。スタートアップとのPOC開発や投資、有志活動として経産省とのシリコンバレーD-Labプロジェクト推進や、始動Next Innovator海外サポーターなど参画中。