2019年活況なIPO ~過去最大のIPOラッシュ~

厳しい評価のライドシェア

2019年IPOの目玉はライドシェアのUBERとLyftであろう。昨年の段階$120超でのIPOが予想されたUBERであったが、上場時の時価総額は約82.4B、その後の株価も振るわない状況が続いている。原因としては、継続的な決算赤字、主力事業であるライドシェア事業の収益性の悪化、成長の鈍化が理由として考えられる。

前月号(Mobility Update ~第2四半期決算から読み解くUberの成長~)でもふれたように、前年同期と比してUBERの取引数(Booking)が30%伸びているのに対し、ドライバーや店舗への支払いを控除したUBERの取り分である収入(Revenue)はわずか14%の伸びにとどまっている。セグメント別には、ライドシェア事業における取引が20%増しているが、同収入はわずか2%の増加にとどまっている。Uber Eats事業の取引は91%、収入は72%増加しているが、今後の成長に疑問が呈されている状況である。Lyftも多額の赤字に苦しんでおり、本年のIPOの目玉であった両社の不調はIPO全体の印象を厳しいものとしている。

期待が高まるBeyond Meat

2019年のHottest IPOとされるBeyond Meatの時価総額は上場時の$1.5Bから一時$13.85Bまで高騰した。2009年に創業したシリコンバレーの同企業には、マイクロソフト社の創設者であるビル・ゲイツも出資している。同社が、人類が直面する深刻な食肉不足を解消するために2016年販売を開始した「ビヨンド・バーガー(Beyond Burger)」に大きな期待が寄せられていることが分かる。Beyond Burgerは、エンドウ豆由来のプロテインやココナッツ・オイルなど22の植物性材料で、牛肉を使ったハンバーガーの味を再現している。Beyond Burgerは、ホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)の、食肉コーナーにて購入可能である。植物性バーガーやキノコの菌を使用した環境に配慮した食料の起業は相次いでおり、同社が高い評価を受けていることは同業種の起業家には大きな励みとなることであろう。

B to BコミュニケーションツールZoomとSlackのIPO

本年は、SaaSであるZoomとSlackがそろって上場し、安定した評価を得ている。Zoomの時価総額は、上場時の$9.2Bの約3倍の$25.2Bに高騰しており好調である。Zoomは、2011年に設立された、クラウドを利用したしたオンラインカンファレンスサービスである。Skypeの牙城を崩せる企業は現れないのではないかと思われたが、URLからワンタッチでミーティング参加、主催者以外は登録が必要ないなど、ビデオカンファレンスシステムが乱立する中での課題に対する圧倒的なUXにより支持を集め急拡大した。ZoomはVideo Communicationシステムにより課金をしているが、収益的にも安定しており、直近の年度決算で前年比118%成長の$330.5M売上、$7.6Mを利益を計上している。米国の上場申請書類にあたるS-1では、$100,000以上課金する顧客が344社いることを明かしており、安定的な成長が期待されている。

Slackが戦うB to Bのテキストコミュニケーション市場は、2016年37.2Mから2020年48.7Mに30%ほど伸びると予想されている。Slackは、エンジニアのコードの共有しやすさで話題となり、ビジネスチャットツールの火付け役となった。ファイルの共有のしやすさ、メッセージ検索、社外を巻き込んだコミュニケーションエコシステムの構築しやすさを売りにしている。外部のHR, Sales, Analytics, プロジェクトマネジメントなど100を超える SaaSツールと容易にインテグレーションを行うことができ、1月には1000万人のアクティブユーザーを獲得を発表、上場申請書類では50万社以上(Fortune100のうち65社を含む)への導入があるとしている。(出典:Microsoft HP)

Slackが独走するかと思われた同市場に対しては、Microsoft Teamsが猛追をかけている。Office 365に連動し、Officeを導入している50万社が導入しやすいような設計で、次々と大手企業への導入が決まっている。導入の規模にもよるが、Microsoft Teamsのユーザーの単価は$250~300と、Slackの単価$140~270を上回ると推計される。Slackが会社の中での部分的な導入から始まることが多いのに対して、Microsoft Teamsは全社で導入されるパターンも多いと考えられるため、今後の熾烈な競争から目が離せない。

今後のIPO

今後のIPOとしては、最後のRoundで約$47Bで投資を受けたとされるWe Workの運営会社The We CompanyのIPOに注目が集まる。銀行からのデッドファイナンス$6B実行のためには、IPOでの$3B以上の調達が必要との情報もあり、上場時の時価総額及び調達金額に注目が集まっている。 https://jp.techcrunch.com/2019/09/10/2019-09-09-troubles-keep-mounting-for-the-we-company-as-softbank-reportedly-calls-for-shelving-the-ipo/