第24回 アメリカの大学受験の概要 (前編)

 みなさま、こんにちは。シリコンバレーでピアノ教室を主宰している、有座なぎさです。
「音楽教育のススメ」と題したコラムを毎月第四週目に担当させていただいています。
 今回は、これから大学受験シーズンを迎える高校のシニアの生徒さんとそのご家族、そして近い将来、大学受験が訪れる高校生・中学生のために、これまでの私自身の子育ての経験や、ピアノの生徒さんの大学受験を通して学んだこと、感じたことなどを盛り込みながら、アメリカの大学受験についてお話しようと思います。
 アメリカの大学受験は、日本のそれとは違い、テストによる一発勝負ではありません。高校全般(アプリケーションを出す時点まで)の学校の成績(GPA)、そしてSAT/ACT テストスコア、エッセイ、課外活動、そしてレコメンデーションレター(推薦状)など、多岐に渡る項目で判断されます。ですから、テストの結果だけ良くても、トータルの学校の成績、そしてその人の人物像となるエッセイや課外活動などがお粗末であれば、到底良い結果は望めません。しかも、大学側が受験生を分けるカテゴリーとして、人種、住んでいる州(国)、国籍、親の年収、レガシー(親や親族がその大学の卒業生かどうか)なども見られます。ですから、カリフォルニアに住むアジア人で、レガシーもない、となるとそれだけで、望むと望まざるにかかわらず、最も激戦区のカテゴリーに入ることになります。私の子供たちもそうでした。アメリカ生まれではあるものの、両親とも日本人、そしてカリフォルニア在住、低所得者でもなく、かと言って億万長者でもないシリコンバレーの平均的な年収、そしてレガシーは全く無し。でも悲観することはありません。そのような生徒でも、アイビーリーグ大学やスタンフォード大学、UCトップスクールに合格することは可能です。上記のような自分では変えることができない要素を悲観するより、自分で変えることができる要素、すなわち、学校の成績、素晴らしい課外活動の記録、ベストなテストスコア、よく吟味されたエッセイなどで、栄冠を勝ち取ることは十分可能なのです。

 まず、大学受験で最も重視されるのは、当たり前のことですが、学力です。学力には、GPA(高校3年間、もしくは4年間の成績が求められます)とテストスコアがあります。UC、State などの公立大学では、これらGPA とテストスコアの学力比重がほぼ2/3 の割合を占めます。一方、私立大学(アイビーリーグやスタンフォード大学などを含む多数の私立大学)では、学力の割合はほぼ50%、残りの50%は、課外活動、エッセイ、そしてレコメンデーションレターなどがウェイトを占めます。ですから、もしこれを読んでいるあなた、もしくはお子さんが、UC やState Univ.が第一志望なのであれば、とにかくGPA とテストスコアを上げることに心を砕くべきです。一方、私立大学では、学力以外にも、その生徒の人となり、つまりこれまで熱心に取り組んできた課外活動や、エッセイなども重視しています。優れたスポーツ選手で、ジュニア・オリンピックチームに所属していた、あるいは水泳や陸上、テニスなどで全米や州大会などでトップクラスに入っていた、などの記録は大いに役に立ちます。また、音楽でも輝かしい成果や経歴があれば、音大でなくとも、一般大学にも十分アピールすることができます。ただ、学校のスポーツチームや学校オーケストラで、キャプテンやプリンシパルだった、くらいではちょっと弱いかもしれません。個人演奏なら、国際コンクールレベル、オーケストラなら、NYO(ナショナルユースオーケストラ)やSFSYO(サンフランシスコシンフォニー・ユースオーケストラ)のセクションリーダーくらいの肩書きが欲しいところです。
 また際立ったボランティア活動などもレジメ(自身の経歴)を輝かせるのに大変有意義です。東日本大震災の復興のために数ヶ月間、日本でボランティアに参加した、大豪雨や災害のためのボランティアで働いた、という経験は大いにアピールします。ただ嘘やでっち上げは論外です。あくまでも事実に基づいた経験や貢献を書いてください。また、日本人なのであれば、海外でのボランティアは、真っ先に自国のボランティアを考えるべきです。その他の発展途上国で活動するのも悪いことではありませんが、アメリカに住む日本人であるのに、なぜ自国でなくて、第三国へ?と突っ込まれる可能性もあります。その際にはしかるべき理由があることが求められます。

 ここで、高校のスポーツ選手と、音楽のエキスパートの生徒の大学合格の勝ち取り方について、興味深い話題があります。知人のB さんの息子さんは、二人とも高校生にして、ゴルフの全米トーナメントに出場するくらいの実力の持ち主でした。彼らは高校一年生の時に、すでに複数の大学のゴルフクラブのスカウトマンから接触があり、高校のジュニアの時には、もう志望する大学からほぼ合格内定をもらっていました。学力を維持して、品行方正にしていれば、アプリケーションを提出するだけで、合格を手にできるポジションにいたのです。一方、かたや音楽のエキスパート、C さんのお嬢さんは国際コンクールで受賞経験豊富な才能のあるバイオリニストでした。またL さんの息子さんはNYO(ナショナルユースオーケストラ)でコンサートマスターの経験もあるバイオリニスト、またK さんはプレジデンシャル・スカラシップを受賞するほどの才能のあるピアニストでした。しかし、高校在学中に大学が内定した人は皆無です。皆、一般の学生と同じように、大学のアプリケーションを提出し、オーディションを受けたり、ビデオを提出することにより、大学合格を勝ち取りました。大学の関係者から、有利な条件で大学進学を持ちかけられることもありません。そもそも、大学の音楽の分野にスカウトマンがいるのでしょうか。音楽学部の先生や事務局のスタッフがコンサートやサマーフェスティバルを視察にくることはあっても、大学にスカウトされた、という話は聞いたことがありません。このようにスポーツ選手と音楽などの芸術分野での大学受験はかなり違います。大学側のスポーツと芸術にかける予算の違いでしょうか。音楽を学ぶ高校生を応援したい私としては、少々複雑な思いですが、スポーツの才能のあるお子さんは、大学受験にスポーツが役立つ、そんな恩恵があることも頭の片隅に覚えておくといいかもしれませんね。