終活・相続 米国法律のプロフェッショナルに聞く

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 毎年、相続関係の記事を寄稿しておりますので内容的に似たりよったりになることは否めません。内容も具体的な相談内容ではなく多くの方に読んでいただくという趣旨から、何を書くか悩むのですが、いくつか、過去に当事務所が経験してきている例を利用して、ぜひ皆さんには「歴史は繰り返される」という状況にならないように、エステートプランニングにまつわる事例を考えていきましょう。なお、本稿の事例はすべてフィクションで、特定の当事者のことを書いているわけではありません。

1.   日本に帰国、そしてアメリカに財産がある場合

 まず、よく皆さんから寄せられるのが、アメリカ市民でないのに、そもそもアメリカでエステートプランニングをしておいたほうがよいのか、という系統の質問です。よくある例は、アメリカに長年ビザや永住権で滞在していて、日本に戻ってしまったあと、アメリカにおいてある財産について不安になるというパターンです。アメリカで長年勤めた会社を退職し、日本で余生を暮らそうと日本に戻った夫婦について考えてみましょう。アメリカで生まれたお子さんは1人いらっしゃいますが、アメリカ国内で結婚され、すでに独立されています。このような状況で、夫婦は、自分がアメリカで持っていた不動産は日本に戻るときに処分しました。一方で、銀行口座と証券口座は、大部分をアメリカに残してきた、という状況です。

 アメリカにお子さんがいるということで、流動資産(現金等)はアメリカに残されていますが、エステートプランニングはなんらしていないという状況です。旦那さんの病気が悪化して簡単に渡米できるような状況でなく、奥さんとしては財産がどうなるのか心配なわけです。また、夫婦としては一人息子さんに財産は残せれば良いという考えのようです。

 ここで注意していただきたいのは、本稿では純粋に法律的な観点から考えますので、税法については別途の吟味は必要になると思います。そもそも、永住権保持者が、永住権を放棄して自国に戻る場合には、エグジット・タックス(Exit Tax)など、大きな問題もあります。

 まず、不動産でなく、流動資産だけであれば、日本からでもコントロールするのはそこまで、難しくないはずです。日本からアメリカの流動資産をコントロールしにくいと考えるのであれば、財産をそのまま日本に持ち帰ることも考えられると思います。つまり、アメリカの口座を解約するということです。解約の手続きに関しては各金融機関の対応の問題になりますので、融通の効かない金融機関であれば、いったん海外からでもフレキシブルに対応してくれる金融機関を通して、流動資産を手元にもってくることが考えられます。その後、日本でエステートプランニング(遺言等の作成)をするということになるでしょうか。

 次に、銀行口座等には、Pay on Death アカウントという制度が存在します。金融機関が異なった呼び名になっているかもしれませんが、基本的に、口座所有者が死去した場合、もともと指定しておいた人に口座名義が自動的に変更されるという制度です。この制度は、生きている間に、受取人を指定しておけばよいだけなので、かりに流動資産しか相続の対象になるものがなければ、わざわざトラスト等をアメリカで作成する必要はなく、このように死後の受取人指定をしておけば自分の思うように財産が相続されていくことになります。第三に、口座に相続人を加えるということもできると思います。ただ、名義人に相続人を加えてしまうと、勝手に口座の内容に手をつけられるというリスクもあると思います。第四にやはり、トラストなどを作成して、銀行口座に関する受取人を指定しておくことができます。ただ、トラストを作成する場合には、原則としてトラストの公証が必要になります。アメリカにおける公証の制度は、州内で完結する場合に利用できます。公証人がカリフォルニアにいて、サインする人も実際にカリフォルニアにいる場合に利用できます。日本において、トラスト等の公証が必要になると、在日米国大使館・領事館で行うことになり、手続にかなりの労力が必要になります。

 気をつけたいのは、アメリカに財産がある場合、日本でかりに遺言の作成などエステートプランニングをしても、死後、スムーズにアメリカの金融機関が対応してくれるかわからない、ということがあります。アメリカと日本に財産が分散している場合には、できれば両国の財産をできるだけ切り分けてエステートプランニングをするようにしたいところです。

 また、外国人であっても、アメリカに財産があればアメリカ国内でエステートプランニングをすることはなんら問題はなく、逆に外国人がエステートプランニングをするうえで、違いがでるのは、トラストに関する税法上の利益を受けられる機会が、配偶者が永住権保持者か市民権保持者で変わる程度です。ですので、外国人だからといって、積極的にエステートプランニングをしない理由はまったくありません。

2.   人生のいつエステートプランニングをするべきか

 老後のことを考えるようになってからエステートプランニングをする方も多いですが、最近では日本人でも子供が生まれたときや結婚するときにエステートプランニングをするという方が増えています。アメリカでは不慮の事故に備えて、気軽にエステートプランニングをするものですが、日本ではあまり「死」について考えることは縁起が悪いとか、タブー的な考えもあり、まだ若い人が積極的にエステートプランニングをするということもメジャーではないかもしれません。

 次のような例を考えてみてください。①過去、それぞれ何度か離婚をしていた男女が、40 代になって気があって結婚した。子供はまったくいない。ところが不慮の事故でふたりとも死亡してしまった。二人ともある程度の財産はあるが、多額ではない。そして、夫妻の親類は一切関わりをもちたくないと言っている。友人は多い。② 50 代男性が失踪した。兄弟はいるが不仲で、父母も死去している。積極的に相続に関わってくれるのは、甥っ子だけである。

 ①の例にしても、②の例にしても、相続や後見がスムーズにいきません。①では、相続に積極的に関わってくれる親族は存在せず、友人では相続する権利は法律で発生しないので、裁判所が関与して、長期間に渡る相続手続を経なければなりません。また、「面倒だ」ということでご友人も助けてくれない可能性あります。②の例は、死亡事例ではないですが、失踪して見つからないという事例です。事故にあった場合、死亡は間違いないかもしれませんが、実際に確認はできないということであれば、「失踪」ということになります。そうすると、後見手続を行わなくてはならず、親族の協力がないとなかなか手続に時間がかかり難航します。弁護士として① や②の例を扱うと、「あー、遺言やトラスト、それに委任状(Power  of  Attorney)があればなぁ」というのが、本音です。

 通常、「私が死んだときには」という話はなかなか出ないものだと思います。親族や友人に話す機会はかなり限られるも  のだと思います。ですので、いつエステートプランニングを  するべきか、ということですが、はやくやっておいたほうが  よいことは間違いありません。ただ、急いでやって何がどう  なる、というものでもないので、たとえば、結婚、出産、親   の死亡など家族関係に変化が生じたときに、考えるきっかけ  にすれば良いと思います。また、親しい人の死亡などによって、  人の振り見て我が振り直せ、ということもありえるでしょう。

 今回想定したような具体的な読者からの質問にお答えする「法律ノート」(www.marshallsuzuki.com/jslaw/) という毎週配信しているコラムがありますので、色々な法律の質問をいただければと思います。