第42回 アメリカのコンサヴァトリー (音楽院) について<カーティス編>

 みなさま、こんにちは。シリコンバレーでピアノ教室を主宰している、有座なぎさです。「音楽教育のススメ」と題したコラムを毎月第四週目に担当させていただいています。

 今回は、ペンシルベニア州、フィラデルフィアにある、カーティス・インスティテュートについて述べていきたいと思います。カーティスという学校の名前を知っている読者の方は、おそらくクラシック音楽にとても造詣が深いのではないでしょうか。生徒数155名 (カーティス公式ウェブサイトより) のとても小さなこの音楽院は、しかし、アメリカのみならず、世界の音楽シーンを牽引してきたと言っても過言ではありません。授業料は全額スカラシップ (寮費等の負担あり) で賄われ、少数精鋭のこの音楽院の卒業生には、バイオリンの江藤俊哉 (以下敬称略) を始め、佐藤俊介、古澤巌、Hilary Hahn、Jennifer Koh、Aaron Rosand、チェリストのLynn Harrell、Leonard Rose、ピアニストのYuja Wang、Lang Lang、Gary Graffman、そして、前回のショパンコンクールで4位入賞した、現在在学中の日本人ピアニスト小林愛実など、昔から現在に至るまで、クラシック音楽界のリーダーとも言える演奏家たちが名を連ねています。また、作曲でも、Samuel Barber、Leonard Bernsteinなど、著名な作曲家を数多く輩出しています。カーティスの合格率はわずか4%と、全米の大学の中でも最も合格するのが難しい大学と言えるでしょう。教授陣は、総勢117名、生徒数に対して先生の割合が 3:2と、かなり手厚い教育環境です。レッスンでは、二人の教授が指導にあたり、Performance Coursesの他、Musical Studies, Liberal Arts, Career Studies, Artist Citizen Curriculumなど、卒業後に即戦力となるコース内容が揃っています。実際、カーティスの卒業生が、プロとしてオーケストラのメンバーに採用される割合は、全米のコンサヴァトリーの中でもダントツです。

カーティス・インスティテュート フィラデルフィア
Curtis Institute of Music Lenfest Hall

 教授陣の名前を見てみると、近年、USCからカーティスに移ったバイオリン教授の Midori (五嶋みどり)、ピアノ教授では、Robert McDonald、チェロ教授では、Peter Wileyなど名教授が揃っています。ただ、それぞれの楽器については、教授陣は1〜3名と多くはありません。ですから、カーティスを志望する場合には、自分の専攻の指導教授との相性をきちんと見極める必要がありそうです。学長には、長らくフィラデルフィア・オーケストラのビオラ奏者だったRoberto Díazが務めています。数年前に、学生寮が新しく建設され、設備面でも生活面でも、学生にとって住みやすい環境になりました。

Curtis Institute Cafe

 カーティスの受験がチャレンジングである理由の一つにその受験課題曲のボリュームが挙げられます。
例えば、今年のピアノ科の課題では、まず、 Pre-screeningでは、

  1. A complete work of J.S. Bach (平均律など)、
  2. Mozart, Beethoven, Haydnのソナタから一曲全楽章、
  3. Chopinのソロ曲の中から、one slow (lyrical) and one fast (virtuosic) 各一曲。

そして Pre-screeningを通過すると、さらに、 Live Auditionでは、上記に加えて、Complete Major Work一曲を追加、となっています。これらの曲を、高校生がオーディションのために準備するのはとても大変です。その上、演奏の出来も問われるわけですから。Live Auditionでは、一次審査、二次審査と、さながら国際コンクールのような試験が行われます。

これらの理由からも、Curtis Instituteがアメリカのコンサヴァトリーの最高峰の一つであることは確かなようです。

Curtis Institute Field Concert Hall

CURTIS Institute of Music https://curtis.edu