The Fine Sake Awardsにて最高金賞を受賞した月桂冠Haikuの醸造責任者である河瀬陽亮さんに、アメリカで日本酒を造ることへのを挑戦とやりがいについて伺いました。
河瀬さんがお酒造りに興味を持ったきっかけはなんですか?
子供の頃、なんで大人たちがお酒を飲むんだろうという興味がありました。飲みたかったんですけど、当然自分で飲んじゃダメなので、それなら自分で作ろうと思って中学生の時に家でお酒を作ってみたんですよ。お米をタンクに入れて麹と混ぜて、母親がパン作りなんかに使っているドライイーストなんかを混ぜてみたんです。すると、しゅわしゅわ音がしてきて。厳密には家でお酒を作ってはいけないし、実際に自分が作ったものがお酒になったわけではないんですが。結局その時作ったのは飲んでないですけどね(笑)おいしそうじゃなかったので。
ただそういうこと(お酒を造る過程)に興味があって、発酵を勉強しよう、と思いました。
渡米のきっかけは?
日本の本社からの出向です。一般的にアメリカへの駐在はためらう方が多い中、私は自分の方から行きたいと立候補したので、よく「珍しいですね」と言われます。
入社した時はずっと日本で働くんだろうなと思っていたんですが、アメリカに工場があることを知り、歴代アメリカで働いてきた先輩方と会う中で、そういう人たちのように一流の人材になれるよう、アメリカに行くのは一つの良い経験を積むチャンスかなと思って志願しました。
醸造責任者としてアメリカで働くうえで大変だったことは何でしょうか。
カルチャーショックですかね。自分が思っていた通りにマネジメントにしても、思った通りに動いてくれないと言いますか。
日本でやっていた感覚でマネジメントをしていると、アメリカではマイクロマネジメントと思われてしまいます。コミュニケーションが不十分だとお互い心がズレやすくなってしまって。だから、コミュニケーションはしっかりとるのですが、それはなるべく最初だけに止めるようにしています。朝仕事を始める時にしっかりとコミュニケーションを取っておいて、一度仕事が始まったら、「あなたに任せたから」と、そこからはどうのこうの言わないようにします。信じているから、と。そこで逐一「大丈夫か?大丈夫か?」と心配し続けると、疑っていると思わて、スタッフとの気持ちがばらばらになってしまうので。
自分ではコントロールできないような困難に直面した時どうしていますか?
なんどもうまくいかないことはあったんですけど、例えばアメリカでは機械トラブルが多くて。麹を造る機械とかはアメリカにないんですよね。日本から持ってきた機械が壊れた時にパーツがないとか、メンテナンスの方が日本から来られた時にチェックがなかなか頻繁にできなかったり。そういう時は時間を使ってでも人力でなんとかするしかありません。
ひとつ共通してるのは、何度かそういうしんどいことがあっても、いつも忘れますね。ずっとくよくよしていてもすぐ次のトラブルがやってくるので、気持ちを切り替えます。
お仕事をするうえで大事にされている考え方はありますか?
昔から私は迷ったら困難な方を選ぶようにしています。あとは感謝ですね。そういう気持ちが無いと良いものは作れないのかな、と。部下が遅刻しても、会社に来てくれるだけでありがたいです(笑)
難しい方を選んでよかったな、と思うことは?
それこそアメリカに来たいと手を挙げたことですね。当然アメリカに行った方が難しいので迷いはあったんですが、同じ仕事をするにしても、アメリカだったらいろんな経験ができたりとか、自分の仕事の裁量が大きくなっていろんなことができたりとか。
お酒を造る上で大切にされていることはありますか?
どこかで聞いた話なんですけど、お酒は「つくる」ものじゃなくて「できる」ものだというのあって、まさしくそうだな、と思います。お酒をつくるのは酵母なので。その酵母たちが良い香りだったり、おいしいお酒になるのを我々は手伝っているだけだという。
その酵母のために米を洗ったりだとか、温度を変えたりだとか、お水を変えたりだとか。だからやるだけやって、あとは良いお酒になってください、といつも考えながら働いています。
日本酒をアメリカで造るメリットを教えてください。
メリットは現地で造って現地で売るので、輸送コストがかからないんですよね。加えてフレッシュなものをお届けできることです。ワインとは少し違って、弊社の日本酒は基本的に出来立てがベストなので。
また、アメリカで造るメリットのうちに、新しいことにチャレンジしやすいということもあります。うちの会社はいろんなことに挑戦することをかなり推奨する会社なのですが、日本にいると組織が大きい分、なかなかひとつのことを変えるのが難しく、時間がかかります。造っている量も多いですし、お客さんも多いので、お酒の味を変えようと思っても、変えて喜ぶお客さんもいれば、悲しむお客さんもいるので、そこが難しいんですけど、アメリカに来てからは組織が小さいのもあって、よりいろんなことにチャレンジできたかなと思います。Haikuなんかはまさしくそうで、私がきた時からガラッと味が変わったのかなと思います。
そのHaikuがThe Fine Sake Awardsにて最高金賞を受賞されたということで、受賞のニュースを聞いた時はどのようなお気持ちでしたか?
もちろんうれしいという気持ちはありました。でも、びっくりしたというのが正直な感想です。賞を取ろうと思って出している訳ではなかったので。最高金賞の受賞率が2・5%だったということを後に聞いて、さらに驚きました。
ただ、受賞も嬉したかったのですが、私にとって一番お酒を造っている中での喜びは、お客様に飲んでいただいて、おいしいって言ってもらえることなんです。
賞をもらったからどうのこうのというよりは、これを機にいろんな人に知ってもらえるきっかけになれば嬉しいと思っています。
どういうところを評価されたと思いますか?
マスカットグレープを思わすような独特の香り、あとは甘みもあるので、香りと甘みのバランスをジューシーに捉えていただけたんじゃないかなと。
カリフォルニアのお料理やアメリカの人たちの口に合うような日本酒を造ったということなんですか?
そこまでは狙った訳ではないのですが、品質を良くしていこうという中で、マスカットフレーバーが生まれたという流れです。
オススメの食べ合わせはありますか?
Haiku自体が甘みのしっかりとしたお酒なので、味の濃いお料理に合うんじゃないかなと思います。それと、冷やして飲むのがオススメなので、お刺身とかお寿司とかにもあうかなと。あとはカルパッチョとか。
今後の目標は?
お客様のためにアメリカでより良いお酒を造り続けることですが、私は駐在員なのでいずれは日本に戻ると思います。現在は日本のお酒造りの方法をアメリカで実践しているんですが、実はその方法がアメリカで独自に進化したようなところがありまして、改めて日本と比べてみると、日本の酒造りよりもちょっと合理的というか、日本よりもいいなと思うことがあるんです。技術的なことなので具体的にはお話しできませんが、そういう経験を持ち帰りたいと思っています。
あとはアメリカで一番大きく学んだのは、ダイバーシティマネジメントですね。日本の社会はアメリカに比べて多様性が低く、マイノリティな人々への理解が乏しいように思うことがあり、ハラスメントにつながっている部分があると思います。そういう良くない場合があれば自分から直していきたいと思いますね。
J weekly 読者にメッセージ
もし機会があればHaikuを手にとっていただきたいですね。ぜひ一度試していただきたいと思います。また、レイクタホに行かれる際はフォルサムにある工場へ見学に寄ってみてください。
米国月桂冠
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河瀬 陽亮(かわせ ようすけ)
1988年生まれ。福井県敦賀市出身。2010年東京農業大学を卒業後、月桂冠株式会社に入社する。日本には現在132名しか存在しない、清酒に関する官能評価の専門家としての資格である清酒専門評価者認定を20代で取得する。2015年から米国月桂冠にBrewmaster/Production Manager(醸造責任者)として出向中。在米6年目。