2022年5月17日、カリフォルニア州ロサンゼルスの上級裁判所は、州内に本社を置く上場企業に女性取締役の選任を義務付けた州法は違憲であると判決を下した。この州法については以前も何度かとりあげたが、施行直後から反対派が活発な議論を繰り広げ注目を集めていた。
概要
2018年9月にカリフォルニア州議会は、米国市場で上場している州内の企業に女性取締役の選任を義務付ける州法826(以下「SB826」)を可決した。この法律はカリフォルニア州会社法第301.3条と2115.5条として導入され、主たる事業所(principal executive office)がカリフォルニア州にあれば適用を受ける。同法によると、まず2019年末までに1名以上の女性取締役を置くこと、その後2021年末までには、取締役総数が5名の企業では2名以上、同6名以上の企業では3名以上の女性取締役の選任が義務付けられていた。(なお、ここでの「女性」とは、当人が認識している自身のジェンダーであり生物学的な性別ではない。)違反企業には、初回で10万ドル、2回目以降は30万ドルの罰金が科せられるとされた。カリフォルニア州議会議事運営委員会は、カリフォルニア州内の上場企業約761社がこの新法の対象になると記述していた。これまでこの州法に基づいて訴追された企業はないが、半数が実際には申告を行っていなかったと指摘する声も上がっている。
また、2022年4月1日には、2020年9月30日に施行された社会的に過小評価されているコミュニティ(Underrepresented Community)の取締役選任を義務付ける州法(以下「AB979」)に歯止めがかかったばかりで、今後の成り行きが注目されていた。
反対派の主張
この州法に異議を唱えていたのは、Judicial Watch (政府、政治、法律の透明性、説明責任、インテグリティを推進する、保守系の団体)で、2019年8月9日に、納税者を代理して州法に抵触するSB826の運用への州予算の支出は違法であるとし差し止めを求める訴えを提起していた。
原告の主張の概要は次の通りである。女性の取締役を一定数以上選任することを義務付けるクオータ(割当て)制は、性に基づく区別であることから、合憲性の審査に厳格な基準(strict scrutiny review)が用いられなければならない。この審査基準とは、クォータ制が、州が主張する「職場における(性)差別の撤廃、もしくは女性の労働機会の向上」および「州経済の促進、および納税者の保護と利益」という重要な目的を果たすために必要不可欠かどうかというものである。
審査の結果、裁判所は、SB826の適用範囲は、あくまで取締役会における男女比の結果的平等であり、包括的に女性に与えられている機会を向上するものではないとし、また州経済の促進や納税者の保護と利益に関しても、被告(州)はSB826の正当性を立証できていないことから、同法は違憲であると判断した。
考察
ただ、今回の判決はクオータ制を義務付けた州法が憲法違反とされたので あって、大企業をはじめとする様々な組織がダイバーシティを重視する独自の取り組みは今後も続く傾向にあるだろう。
MSCI (Morgan Stanley Capital International) 、 EIGE (European Institute for Gender Equality) 、 McKinsey & Companyによる調査をまとめた大野威氏の論文によると、女性役員が3人以上いると企業業績や株価にプラスの影響を与えるという研究結果が実証されている。(*)やはり、多様な視点・価値観を受容することで、イノベーション、競争力、社会的評価を促し、企業価値が向上するような労働環境と取締役会構成を構築することが今後は重要になってくると言えるだろう。同様の法律は、カリフォルニア州を起点にいくつかの州 に広がりを見せており、ダイバーシテ ィは大きなテーマの一つであり続けるものと思われる。
(*)大野威(立命館大学産業社会学部教授)2020,「女性役員登用の国際比較および女性役員と企業業績・株価の関係」
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