みなさま、こんにちは。シリコンバレーでピアノ教室を主宰している、有座なぎさです。「音楽教育のススメ」と題したコラムを J weeklyに連載しています。
さて、今回は、毎年夏と冬にNYで行われている音楽キャンプ、パールマン・ミュージック・プログラムを、実際に筆者が現地を訪れて視察して参りましたので、リポートしたいと思います。
このプログラムは、世界的に有名なバイオリニストのItzhak Perlmanの夫人である、Toby Perlmanが、夫のパールマン氏と共に(彼はこのプログラムに関わるスタッフや学生たちから、親しみを込めて、Mr.Pと呼ばれています)、若き音楽家たちに、競争よりもつながりを重視した教育環境を提供する目的で、1994年に設立されました。ここでは、学生たちが、パールマン氏はもちろんのこと、Don Weilerstein、Joe Krosnickなど一流の教授陣から学ぶことができ、その内容は技術的な習熟の域を超えて、本物のアーティストに成長するために、さまざまな視点からの学びがあります。そしてその活気に満ちたプログラムは、個人レッスンに留まらず、室内楽、コーラスのコーチング、そしてそれらのコンサートをより魅力的なものにしています。
パールマン・ミュージック・プログラム(PMP)は、NY州ロングアイランドの北にある、シェルターアイランドという小さな隠れ家的な島で行われています。シェルターアイランドへ行くためには、ロングアイランドの二つの港から出るフェリーに乗るしか手段がなく、そのため、シェルターアイランド内の物価は対岸の街に比べて割高ですが、その分、治安がよく、静かで自然豊かな落ち着いた環境が保たれています。28エーカーという広大な敷地を所有する、PMPでは、宿泊施設や食堂はもちろん、リハーサル室、コンサートホール、テニスコートなどが併設され、目の前には三日月型のプライベートビーチが広がる、まさに楽園のような立地です。夏のプログラムは、12歳から18歳までのSummer Music School(バイオリン、ビオラ、チェロの各楽器)と、18歳以上のChamber Music Workshop (バイオリン、ビオラ、チェロ、ピアノの各楽器)の二つがあります。受講者はビデオ・オーディションによって選ばれ、一度合格すると、毎年、オーディションはあるものの繰り返し参加することができます。それゆえ、受講者同士のつながりはもちろん、教授陣とも絆が生まれ、Summer Music School (高校生以下の部)の出身者は、ジュリアード音楽院やNECなど、PMPで教鞭を執る教授陣が教えている音楽大学に進学する人が多いようです。特にバイオリンに関しては、かなりレベルが高く、毎年、国際コンクールの覇者、入賞者たちが続々と参加しています。
私は今回、18歳以上の学生たちが参加する、Chamber Music Workshopのコンサート、およびマスタークラスを聞いてきました。プログラムは、5/27~6/19までの3週間余りに渡って行われ、参加者たちは、計3曲の室内楽(全楽章)を違うグループのメンバーたちと演奏します。その中の一曲は、指導にあたっている教授陣たちと一緒に演奏することができ、娘の有座エレナ(チェリスト)は、パールマン氏本人と共演する機会に恵まれました。その演奏が素晴らしかったことは言うまでもありません。最終週には、毎日マスタークラスの他、一日2回のコンサートが行われ、感染対策のため、外のテントで行われました。どの室内楽グループもジュリアード音楽院やNEC、カーティス、Eastman、ノースウェスタンのマスター以上の学生たちで構成され、そのレベルは、全米のサマーミュージックプログラムの中でも、屈指の高さと言えるでしょう。参加者たちは、オフの日には、Mr.Pの自宅に招かれて、美味しい食事とともに本人から直々にワインを注いでもらうなど、そのホスピタリティと手厚いもてなしを大いに楽しんでいました。娘は早くも来年のプログラムを楽しみにしているようです。若き弦楽器奏者の皆さんは、是非チャレンジしてみてはいかがでしょうか。