ヘルスケアデータの民主化 ~データは誰のもの?~

8月中旬、Google, Apple, Amazonを含むTech Giantが、ヘルスケアデータを患者やサービスプロバイダーがより便利に利用できるようにすると宣言した。データの利用効率を上げると、米国内で$30B(約3.3兆円)の経済効果があるとも言われている。そのため、トランプ陣営の関係機関もこの流れを歓迎しているという。

データ活用の鍵になるのは、レベルⅢ(将来予測)及びレベルⅣ(処方的)のAIと言われる。このレベルのAIは過去の結果の分析を超えて、将来の予測を行ったり、将来への示唆を与えるものである。処方的AIとは聞きなれない言葉かもしれないが、処方箋(Prescription)が語源となっており、医師の指導のように解決策まで提示してくれるAIである。これを可能にするのが、目的及び課題解決に即した質の高いデータと幅広いデータの活用である。

質の高いデータの活用

質の高いデータの活用では、AliveCorなどの新興企業に注目が集まる。Alive Corは、AppleWatchに対応した心電図取得機能を持つバンドを開発、販売している。同バンドはFDAの承認を得ており、バンドに埋め込まれた電極部分に、装着しているのと反対側の手の親指を当て、30秒ほど待つだけで、プロレベルの心電図が計測できる。同社は、米国の総合病院Mayo Clinicとも提携し、1000万を超える心電図のデータを収集、将来何らかの心疾患が発生する可能性を解析するソリューションを開発している。心疾患の多くは、病院での心電図取得の合間に発生しており、患者は日々不安を抱え生活している。患者の多くは、質の高いデータをもとに日々心臓の状態に異常が無いかを知ることのできる同社のソリューションを歓迎している。

幅広いデータの活用

幅広いデータの活用では、電子カルテをはじめとするEHR(Electronic Health Record)と患者個人が自ら健康管理のために蓄積したPHR(Personal Health Record)との融合がポイントとなる。日本では、データの管理者が異なるため、EHRとPHRの融合が進んでいない状況であるが、これが達成されれば、個人に関する健康のデータが一元管理され、患者もプロバイダーもアクセス、活用することが可能になり、効率的なヘルスケアシステムが達成される。

これを高いレベルで実現しようとしているスタートアップとしては、GOQiiが挙げられる。シリコンバレーのスタートアップであるが、深圳でデバイスを製造し、インドをメイン市場としている。同社は、ウェアラブルを活用したクラウドヘルスコーチのサービスを提供することにより、インドのウェアラブルマーケットシェアNo1を達成している企業である。同社はその後、ユーザーが自分の健康データを管理できるクラウドサービスの提供を開始している。ウェアラブルからの情報に加えて、病院での診察、食事、遺伝子検査キットを活用した遺伝子情報も管理可能で、個人が自らの健康関連データを管理可能な世界を創り出すことを目指している。

同社は収集したデータに基づく、人の健康状態を定量化するヘルススコアを開発しており、個人がより健康になるように指標を与える。医療機関は診療に、保険会社はプレミアム算定に同データを活用できる。ヘルスケアデータを個人が管理し、ベネフィットを受けれる世界がそこまで来ている。

「ヘルスケアデータは誰のものか。よりよい社会、効率的なシステムにするためにどのような仕組みがあるべきか。」改めて考える時期に来ているように思う。

※本稿は日経新聞が運営するCOMEMOに筆者が寄稿したものを加筆、補足しました。https://comemo.io/entries/9699