カリフォルニア州内の数あるAVA(=アメリカ葡萄栽培地域)の中で、最も有名なワイン産地といえば、やはりNapa Valley。名前をよく見ると「ナパの谷」という簡単な地名なのだけれど、「ナパバレーが谷である」という地形的な特徴は、意外とあんまり気にされていない。でも、ワインを選ぶときに、この「ナパ谷」の地形をざっくりと知っておくと、お目当ての味わいを見つける大きなヒントとなってくれます。
Napa Valley AVAは、南北に長く伸びている平地部分と、その東西にそれぞれ壁のようにそびえる山脈で形成されているワイン産地。今回は、平地と山手のブドウの味わいの違いについて、ナパで最も生産量の多いカベルネ・ソーヴィニヨンの例で見てみます。
平地部分は、Napa Valleyの谷底にあたる場所ということで、よくValley Floorとも呼ばれます。土壌が豊かで日中の温度も上がるので、ブドウの木にとってストレスの少ない「好条件」。でも、前回紹介したように、ハードな生育環境を好む高品質ワイン用ブドウには、この谷底は恵まれすぎ…のように思えるけれど、朝晩発生する「霧」が寒暖の差を生み出すことで、ブドウに適度なストレスを与えてくれるのです。ブドウの実も、霧の寒さで身を引き締めながら熟すことができ、そこから造り出されるワインは、どっしりと熟度の高い果実味の強い味わいとなります。
一方、東西の山手にある畑の多くは、標高が高いため平地よりも平均気温が低く、また、固い岩盤の痩せた土壌であることから、ワイン用ブドウにとっては理想的にハードな生育環境。生存に必要な水分や栄養素をしっかり守ろうとする結果、通常よりも小粒で果皮の厚い凝縮度の高いブドウができ、果皮から抽出される色やタンニン(渋み)が濃厚な、しっかりとした骨格を感じさせるワインとなります。
Napa Valleyの谷底からできたワインなのか、山育ちのワインなのかという出自の違いから、果実味の熟度や強さ、タンニンの強さなど、飲み比べたり、お好みを探したりしてみてはいかが?