佐藤 良規(さとう・りょうき)
1972年生まれ。遠洋漁業を含む様々な職種を体験、海外を放浪の後、禅寺藤源寺の住職となる。寺をハブとした地域コミュニティ作りを多面的に展開。2011年、東日本大震災で被災。以来「本当に生きるとはなにか」という問いに導かれ、仏教そのものをあらためて参究、その体験と気づきを共有する講演と対話を国内外で重ねながら、里山づくり、遊び、学び等、多くのプロジェクトを通して子どもたちに未来をギフトする日々に生きる。千年藝術の森プロジェクト発起人。NPO団体「浜わらす」顧問。4児の父。http://hamawarasu.org/
現職に就かれる前、20種以上の職種を体験、また海外30カ国を放浪されたとのことですが、どのような経緯があったのでしょうか。
お寺に生まれ、継ぐことを期待されて育ったのですが、大学の時に沖縄に旅行した際、沖縄の文化や風土、気候に大きなカルチャーショックを受けたのです。以来、まずは色々な世界(職業や国々、文化)を直接体験し知ることで、他者に決められた人生ではなく、自分の納得のいく生き方を選択したいと思うようになり、このような経歴となりました。
その後、岩手県にて創建550年の禅寺藤源寺の住職となられましたが、そのきっかけは。
大きく3つの点が重なったと言えます。1つ目は高校のときに祖父の「死」を間近に経験したことです。以来、ホスピスケアに関心が生まれ、介護の仕事をすることにつながりました。2つ目は、海外で、様々なヴィヴィッドな世界の有り様に直接出会った経験です。「生きるとはなにか」という問いかけを解くような仕事をしたいと感じはじめました。3つ目はダライ・ラマ猊下が2006年に訪日した際の映像です。生き方に悩み苦しむ若い女性を壇上でハグした猊下の姿に強烈に感動し、僧侶という生き方を改めて考え直しました。
その後、私が29歳のときに、先代住職だった父が55歳で急逝しました。地域のみなさんに、寺を継いでくれと頼まれたときに、その3つの点が重なり、僧侶とは人生のホスピスケアであり、「生きるとはなにか」という問いを解くべき生き方だと腑に落ち、引き受けることを決意しました。
2011年の東日本大震災で津波に遭遇、トラックの屋根の上で九死に一生を得る経験をされたとのこと。その後の活動に大きな影響を与えたと思います。
私自身の死という大きな事実に出会い、「本当に生きるとは」の問いの質が、「何をするか」という生き方から、「どうありたいか」へとシフトしました。また、周囲の被害の大きさ、人々の悲しみの巨大さに、宗教者として途方も無い無力感を味わったと同時に、宗教者が本当に必要とされることもわかりました。
現在私は、生きることを「3つのギフト」と表現しています。1つ目は、今生きているという奇跡をギフトとして受け取っている、ということを忘れないこと。2つ目は、自分の生命を世界(他者)のためのギフトとして生きること。3つ目は、よりよい未来をギフトする喜びのために生きること、です。
顧問を務めていらっしゃるNPO団体「浜わらす」の活動とは。
震災と津波で海との共生から分断されてしまった子供達が、もう一度海で育つことのできる環境づくりと、コミュニティの再生を目指す活動です。活動は、子供達と海で思いっきり遊ぶこと!
住職としての活動の傍ら、お寺をハブとした様々な地域コミュニティづくりに尽力されているとのことですが。
日本の農村は過疎と高齢化が課題と言われていますが、言い換えれば、自然環境の豊かさを受け取る自由度の大きさや、実験的な社会事業の空白と可能性の大きさがある、とも言えます。
コミュニティづくりの活動には大きく3つあります。まずはお寺の所有する森を「千年藝術の森」と名付け、1000年後に深い原生林となる森づくりです。2つ目は「リラスコーレ〜寺子屋3.0」として、子どもたちの遊びと学びの場としてお寺を活用することです。デンマークの教育思想を基に、不登校など既存の学校に馴染めない子どもたちや、クリエイティブなチャレンジをしたい子どもたちのための「場」作りです。3つ目は、神社とお寺の協働によるコミュニティの再生です。日本は古く神仏習合が文化の基礎でした。神社は自然とのつながりを取り戻す場、お寺は人としての生き方を学ぶ場と捉え、いま新たに神仏の習合を組み直すことで地域文化の復活、生産物の価値の再定義、関係人口の増加にチャレンジしています。
様々な地域活動を通して、地域の活性化ややりがいなどを実感できたエピソードは?
お寺を子供達に解放する冒険遊び寺の活動では、子供たちがなかなか帰りたがらず、1日の終わりにある子が僕のところに来て、「神様に明日も来られるようにとお祈りしたよ」と言ってくれたのは嬉しかったですね。更にママさんパパさんのコミュニティができて、新しいフリースクールプロジェクトを自発的に立ち上げていることや、浜わらすの活動で、子供達が元気で海辺で遊んでいる姿を見てむしろ大人たちも元気になっていったことなども、本当に嬉しいです。
今後の活動や展望は。
お寺としては、前述した3つをオーガニックに統合しすすめること。特に子供たちが(大人も)海外に渡って交流する仕組みを作りたいと思っています。
個人的には多くの人に会い、私の震災の体験と禅の伝統(坐禅)を通じて「本当に生きるとはなにか」という問いに取り組む皆さんのお手伝いをしたいと思っています。私が共同開発した「禅ブレンド」というシアバターも、坐禅や瞑想が深まり、日常に「神聖な空白」が生まれるよう願ってデザインしました。
読者へのメッセージ
12月4日夜にCampbellにて、映画「Buddhist」の上映会とお話会をします。この映画は、私と同じく震災で「生きるとはなにか」という問いに出会った友人が、6人の僧侶の生き方を追うことでその問いを深めてゆく、深い映画です。こちらに住んでいる日本人の方々にも、311で経験したことをお伝えして、「生きる」ことが更に輝く機会になれば嬉しいです。
◎皆様からご支援頂いた寄付金は「NPO法人浜わらす」の子供達の活動に使わせていただきます。ご賛同頂ける方からの温かいご支援をお待ちしております。