池端 大輔さん / SOMPO Digital Lab, inc. CEO

SOMPOは、昔、保険会社だったよねと言われたい

SOMPO Digital Labを立ち上げた時期、経緯、主な業務内容を教えて下さい。

経緯を説明させて頂きますと、正直我々の市場は長い歴史の中でも「デジタル」という言葉にあまり縁がなくどちらかという人と人とのアナログビジネスで成り立ってきた経緯がありました。例えば、弊社の保険も代理店様を通しながら契約の際には契約書(紙)にサイン&印鑑を押して頂くという事を120年以上も実施してきた事実がございました。

一方、デジタル技術の革新に伴う未来のビジネスモデル変革に危機感を募らせた弊社のグループCEOの櫻田 、グループのメインである損害保険会社のCEO 西澤の両ヘッドが先頭に立ち、まずは社内の経営企画部内にデジタルR&Dを推進する業務企画室を2014年に立ち上げたのがきっかけとなります。

その後は東京からの出張ベースでデジタル最先端の都市を回って情報を集め、社内で共有するという作業を行っていました。しかし、出張ベースで数週間いただけでは現地の深い情報を集めたりネットワークを構築したりするには限界があるという事で、2015年には駐在員を派遣する事を決め、デジタルの最先端でもあるシリコンバレーに2016年4月にオフィスを開設しました。長い歴史のある保険業界だけに新しい事を始めるときは慎重に実施する傾向にあります。渡米当初は私もSOMPOアメリカの社員として活動をしておりましたが、それでは意思決定も遅く当地のスピードについてゆけないという事で、この度2018年4月にシリコンバレー独自の法人としてSOMPO Digital Lab , Inc.を設立することになりました。(ホールディング会社直下所属)。

どのスタートアップと協業するのか、どのベンチャーに投資をするのかなど重要な決定は勿論東京側との協議になりますが、POCと呼ばれる初期の実証実験レベルでは本社の決裁を必要としない体制を確立させました。そういった意味では、意思決定がものすごいスピードで実施できる魅力があり、これはスタートアップと交渉する上でも大きなアドバンテージになります。損保という業界だけにこだわらず新しいイノベーションを起こしている業界の人たちともどんどん手を組んで、新しいパートナーシップを組んでいきたいと考えております。

当地での主な業務内容は「R・D・C」となります。Researchは将来手を組むべき企業や、インキュベーター、VC、エンジェルなどを探し東京を含めて世界30ヶ国にあるグループ会社への情報シェアを実施しております。DはそれらをDevelopさせる事。CはCulture ChangeのCCとなります。我々がシリコンバレーに進出して感じるのは、ここはテクノロジーやアイデアの聖地なのではなく、「デザインシンキング、ビジネスメイクの聖地」だということです。スタートアップが生まれやすい環境がここにはある訳で、彼らの知見を弊社としても積極的に取り入れていきたいと思います。企業文化を変えていくという意味で、シリコンバレーの日系企業でも過去最多?と自負できるほど日本から多くの出張者を受け入れております(昨年は年間の1/3は出張者対応にあてていた位です。笑)。役員クラスは勿論ですが、若手の社員も受け入れ、グループ単位での短期研修を行い徹底的にデザインシンキングなどを学んでもらうようにしております。勿論彼らには、AirbnbやUberなどを利用してもらいシリコンバレー発のサービスを積極的に体感してもらうようにもしております。

池端さんの日本時代での業務内容を教えて下さい。

私の経歴を説明させて頂きますと96年に損保ジャパンに入社し、栃木支店に配属をされました。いわゆる代理店の方と膝詰めで向き合うドブ板営業を6年間やっておりました。笑

その後東京本社にいきまして、中央官庁(経産省・農水省)を中心としたクライアントを担当し、国と連携した補償制度の立ち上げや、国単位のプロジェクトへのリスクマネジメントコンサルティングなどを2002年~2009年まで7年ほど実施しておりました。ここまでは全くドメスティックな人間だったのですが、2008年頃から海外事業を強化するという社の方針もありまして2009年にはブラジルに赴任命令がでました。世界一日系人の多い国と言われているブラジルでは、ローカル物件を中心に扱う現地法人「マリチマ社」を買収し、その経営に携わってきました。その頃の経験も今のシリコンバレーを立ち上げる際にとても役に立っていると思います。その後最初の話に戻りますが2014年からは東京本社に戻ったという事になります。最近は社内の新規事業を立ち上げる際に呼んでいただくことが多くなったという感じがいたします。(本当は違うのですが)ストレス耐性が強い、というように見えるからだと思います笑

日本からみるシリコンバレー、実際に来てからのシリコンバレーのギャップなど感じましたら教えて下さい。

当初はシリコンバレー=テックの街 というイメージが頭の中にありました。Google , FB , Appleなどがそういうイメージを連想させていたのかもしれませんが、実際に来てみると

ここはデザインシンキング、ビジネスメイクの街であり、これらのメソッドやエコシステムを活用し、新しい商品、サービスが次々に誕生する街だという事に気がつきました。そして生まれたビジネスがサステイナブルになりやすい環境も整っていると思います。英語が使えてアイデアがあればどんな人にもチャンスがある、それがシリコンバレーだという気がしております。我々にもまだまだチャンスはあります。

96年入社時の損保業界、並びに昨今(2018)の損保業界の変遷をどのように感じておりますか?

損保業界は簡単に言うと、約5割が自動車保険、3割が火災保険(火事、水漏れ、天災、台風等)、その他2割となっております。Aiやデータ活用が更に普及すると、将来的には、自動運転により事故が減り、水漏れなどを防止するシステムや、台風を事前に察知するシステムが出来上がることで火災保険の事故も減るものと考えております。事故が減れば保険が安くなり、自動車保険や、火災保険に加入する人が減ってくるのかもしれません。生命保険も人口が減れば自然と加入者も減ってしまうのです。一方、弊社が日本国内でも力をいれている介護事業など新しいビジネスのチャンスも出てきます。私もシリコンバレーにいる間は、新しいビジネスチャンスをしっかりとR・D・Cしてイノベーションを起こしていきたいと思います。

池端 大輔
 
96年 損保ジャパン入社 栃木支店配属。現場での営業経験後
02年 東京本社にて中央省庁を中心としたクライアント担当。
09年にはブラジル・サンパウロに赴任。現地法人買収などを経験し、14年再び東京本社へ。SOMPO Digital Lab立ち上げの準備をして
16年シリコンバレーへ赴任。現在に至る。