シェパニース 料理人 Hiromi Bower Uiさん

<プロフィール>
◆Hiromi Bower Ui
千葉県九十九里生まれ、5歳から民宿や海の家の厨房を手伝う。田畑を持つ小学校で6年間の農業教育を受ける。中学2年生の時に地元のオーガニックファーム「熱田農園」の薪火で煎られた自家製麦茶のおいしさに感動し、有機農業に興味を持つ。2009年韓国に移住、朝鮮郷土料理について学ぶ。2010年に寺田本家の蔵ツアーに参加し、発酵道に触れ、人生観が大きく変わる。2011年よりソウルのファームトゥテーブルカフェ「スッカラ」でマネージャーとして働きながら食と農をつなぐ活動、ヨガと瞑想の指導、アクティビズムに関わる。2015年よりベイエリア在住。東オークランドにあるキャンティクルファームの中にあったカサデパズでの暮らしとサンフランシスコのフリーファームスタンドでのボランティアを通して、アーバンファーミング、食のシステム、フードジャスティスについての理解を深める。2016年、ワシントン州オーカス島にあるブロックス・パーマカルチャー・ホームステッドにて研修生として時間を過ごす。2017年に長女出産後はウエストマリンで暮らし、ニップン・メッタ氏が代表を務めるサービススペースのリトリートセンターの食事担当、中国茶の輸入商デイビッド・リー・ホフマン氏のプライベートガーデナー・シェフを経た後、シェパニースの哲学に共鳴し、2018年より料理人として働き、現在に至る。ノースオークランドにあるコウハウジングコミュニティにて夫と長女とともに暮らす。

written by 飯島有輝子 (Happier)

 バークレーの名店シェパニースのオーナー、アリス・ウォータース氏は「オーガニック料理の母」と呼ばれる。彼女の食と農に対する哲学は、単なる料理というカテゴリを越え、新しい食文化や、環境と人との関係性を新たに提案したパーマカルチャーとして注目されている。
 そんな彼女の哲学に共鳴したひとり、シェパニーズで料理人として働くHiromi Bower Uiさんを、J weeklyが特別にインタビューしました。

ベイエリアに移住したきっかけ

 きっかけは「ギフトツアー」への参加でした。これは、日本からの航空券は参加者が各自負担し、現地での10日間の滞在費(交通費、食費、宿泊費など)が全てギフトという内容で、12名の参加者には支払い責任一切無しというユニークな旅でした。オーガナイザーの友人2人が3箇所の宿泊場所や食事・間食などを用意してくれ、誰も払ってくれないかもしれない自身の報酬や何万円ものレンタカー代を立て替えてくれます。ギフトでつながった参加者、オーガナイザー、ツアー関係者はツアー中、ひたすら3つのこと「与える」「受け取る」「誰が与えて受け取っているかわからない」を繰り返すことになります。生まれたばかりの赤ちゃんのように与えられ続けていると、「私はこの与えられるものに値するのだろうか?私は生きるに値する人間なのだろうか?」という深い問答をしながらも、感謝の気持ちで包まれるような感覚を得たのは新しい経験でした。そのツアーは巡礼のような、スピリチュアルプラクティスのような、人生観が変わるパワフルな経験となりました。このツアーでは、強制ではなくそれぞれの自由意志で参加者や関係者から寄付があり、ツアー費用が賄われることとなりました。
 このツアーはベイエリアをベースとしその活動範囲を国際的に広げている「サービススペース」と、私がその後暮らしたカサデパズ(Casa de Paz)で実践されていた「ギフトエコノミー」という考え方からインスパイアされ企画されたものです。このギフトエコノミーとは、貨幣経済や交換とは違い、お金を払ったり受け取ることなしに与え合う経済のこと。相互に関係しあい、協力しあうことを強調されるギフトエコノミーの世界では、コミュニティの中でモノやサービスが循環し、コミュニティの繋がりはより深いものとなります。私の友人でもあるサービススペース代表のニップン・メッタ(Nipun Mehta)氏がよく言うのは「ギフトエコノミーからは私達の中に次のような変化を生み出します。消費者から貢献者へ、取引から信頼へ、孤立からつながりへ、足りない感覚から豊かさ、満たされている感覚へ。」そして、この「ギフト」とはニップン氏が発明したものではなく、まさに自然や地球が私たちにいつもしてくれていること。空気、水、食べ物、海や森や土や他の生物は私達にいつも与えてくれています。そして私達人間の営みにも無償の愛があります。これは先住民の考え方や仏教の相互依存関係にも見られる古くからある考え方なのです。こういった考えに深く共鳴し、そういったコミュニテイのあるベイエリアに移住しました。

働いているシェパニースの現状について

 2018年の初秋からシェパニースで働いています。シェルターインプレースの閉店期間を経て、現在はテイクアウトのみですが、水曜から日曜の週5日ランチとディナーの営業を再開しています。
 1階にあるレストランでは、シェルターインプレース前は毎日午後1時半、シェフと料理人で集まるメニューミーティングからその日の業務がスタートします。
 シェフからメニューの説明があり、誰がどうやって作るかが話し合われます。そのかけ合いが詩的で美しいなと感動したことが何度もありました。思いがけず初物のアスパラガスが農家さんから届いた日、シェフからは「どう料理したら、このアスパラガスを祝福できるかしら?」というような問いかけから始まり、その夜のメニューの詳細が決められていきます。ミーティングの後、2時から調理、5時半には約100名のゲストのための食事の仕込みが終わり、一つ一つの料理が完成され、その日のワインとのテイスティングが始まります。毎晩が魔法のようです。

レストランから繋がるコミュニティーの輪

 サンフランシスコでガーデニングの師匠についていた時に「ガーデニングって毎日魔法を練習しているみたいだと思わない?」と言われたことがあります。生態系や発酵の世界を見ると、生きとし生けるものは相互に関係しあい、それぞれが自分らしく生きられるよう協力しあっている多様性の世界だということがはっきりわかります。すべては与えられているというギフトの精神とともにあるとき、すべてはつながっていると感じます。単純にシェパニースの料理や仲間や取引先の農家さんが大好きということとは別に、地元の農家さんが大切に育ててくれた食材と料理人の思いや技術があわさって生み出される料理、その過程に深く関われるシェパニースとは、私にとって、その生命のつながりを常に感じられる場所です。自然とのつながりを感じられる料理は、大地との繋がり、先祖や未来の世代とのつながり、同じ地球上に住むすべての命とのつながりによって生かされているということをおしえてくれます。その感覚は私たちを癒やし、生きる力を与えてくれます。おいしくて美しい料理は心を動かします。心が動かされるということは自分らしさや平和や調和を導いてくれると思います。今はそういう料理をシェパニースでもっともっと学びたくて、身につけたくて、厨房に立っています。

社会の問題をどのような姿勢で解決へのアクションをしていくべきと考えますか

 「Be the change」、何か社会の中で変えたいと思うことがあるとき、いろいろなアプローチがあると思いますが、まずは自分自身が変わることを大切にしています。 例えばレイシズムが嫌だなと思ったら、自分や自分のあり方、私の生まれた国、育った文化の中にどんなレイシズムやその種や芽があるか。他の人との関わり方、仕事、子育て、消費は暴力を減らし、平和や癒しを導いているだろうか。自分の行動、言動、思考を観察し、日々の暮らし方を直接的にも間接的にもレイシズムに加担しない方向にシフトできる方法を探していきます。また、そのプロセスの中で大事にしていることが、歴史や社会のシステムを理解するというマクロの視点、レイシズムによって一番影響を受け、苦しんでいる人たちの話を聞き、彼らと関係を築くというミクロの視点をベースに問題について全体的に理解し、自分の立場からは何がするのが一番の貢献なのかを理解することが大切と感じています。

未来を創る活動・これから

 厨房の仕事と平行して、夫と仲間たちと「センター・フォー・リジェネレイティブカルチャー」というプロジェクトに取り組んでいます。環境再生型農業の実践、地球と調和して生きるための方法、それに必要な文化について研究し、学び合う場所を作ろうとしています。土地を得て、大地に許可を請い、木を植え、土を整えるところから始めます。いろんな分野からのサポートがあり、作り上げているプロセスもクリエイティブで学びが多く、楽しんでいます。

シェパニーズデザート

<information>
シェパニース
Chez Panisse
www.chezpanisse.com/1/
営業時間
水〜土 正午〜午後8時
 正午〜午後3時
※2日前のオンラインオーダーが必要、当日ウォークインでも一部購入可能。

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※文中の写真、クレジットのあるもの以外Hiromi Bower Uiさん撮影、提供。