今月14日、サンフランシスコのダウンタウンにあるThe Westin St. Francis Hotel にて、JCCNC(北加日本商工会議所)主催による新年会が開催された。第62回となった今回のゲストは、アーティストとして不動の人気を誇る石井竜也氏。
音楽での活躍はもちろん、映画監督、舞台や衣装などの総合デザイン、絵画や彫刻などの幅広い分野でマルチな才能を発揮する石井氏。1985年の米米CLUBデビューから30年余、ソロ名義も含めてほぼ毎年1枚のCDアルバムを精力的にリリースしてきた彼の「これまで」と「いま」、そして「これから」。
多文化が混在し独特の雰囲気を醸し出すサンフランシスコの街並を背景に、今後の展望について語っていただいた。
日本とアメリカのムード音楽で橋渡しを
サンフランシスコ(以下、SF)に来たのは今回が初めてで、カリフォルニアなので暖かいイメージがあったのですが、霧が多く朝晩も寒くて驚きましたね(笑)。また、8年前に亡くなった父はSFに憧れを強く持っていました。というのも父はジャズが好きで、「ラ・メール」という喫茶店を経営してたのですが、そこで「想い出のサンフランシスコ」という曲をレコードで流しながらサイフォンでコーヒーを淹れていた姿を思い出します。SFに着いたとき、父の憧れの街に来たのだな、と感慨深い気持ちになりました。
また、アメリカの政権が代わり、多くの日本人はアメリカに対して在米日本人よりも「不安」を強く感じています。世界情勢も不安定な中、僕の歌が少しでも心の安らぎになればいいなと思います。
「米米CLUB」と「石井竜也」表現していきたいものとは
米米CLUBでは、演奏力はさておき「情熱」が第一ですね。「よしやるぞ!せーの!」と全員で情熱をぶつけ合うと熱量が何倍にもなっていくので、とても好きな表現の作業です。ソロでは今年で20年になりますが、超一流の演奏チームと徹底してものづくりができるので、米米CLUBとはまた違ったベクトルでの表現方法となります。もちろん表現するにあたっては「情熱」が根底にあるのですが、「せーの!」と言っても一人ですからね(笑)。
今後は、世界にアピールできるような「日本らしさ」を音楽に積極的に取り入れていきたいと思い、そこを意識して楽曲を制作しています。尺八やお琴、三味線や和太鼓などの和楽器とオーケストラを融合させ、全く新しい音楽をお届けしたいです。今回はJCCNCさんの新年会にお招きいただき、オーディエンスは日本人の方がほとんどですが、違う文化やバックグラウンドをもつ人に自分の音楽を聴かせる場合、「日本」というアピールはとても大事だと思います。神社・仏閣でオーケストラと演奏するのもいいですね。日本の音は古来からの建築構造上「木」の反響で成り立っているので、神社・仏閣での和楽器を交えた演奏は、音響設備の面でもクオリティの高い音楽を提供できると思います。あくまで「ポップス」という領域の中で様々な挑戦をしていくのが僕の夢ですね。アメリカの音楽市場は日本の何倍もありますから、トライする価値は十分にあると思います。
また、今後はライブで海外アーティストともっとコラボしていきたいですね。ピーボ・ブライソンとは何度かコラボしていますが、海外だから英語で歌うのではなく、あえて日本語だけで歌うというのも新しい表現かなと。例えば「ムーン・リバー」を「月の河」というタイトルに変えて歌ってもいいわけですよ。音楽はメロディとリズムですから。日本でライブを開催している海外アーティストも英語で歌っていますが、日本のファン全員が歌詞の意味を全て理解しているわけではないと思いますし。
再びこちらでライブをする機会があれば、現地のバンドメンバーと1週間ほどセッションしてみたいですね。彫刻やデザインやアートのエキシビジョンなどもこちらでやってみたいです。これまでに達磨「顔魂~kaodama~」を400近く制作しており、奈良・薬師寺でも展示する機会をいただきました。
SFはアメリカの中でもヨーロッパ的な雰囲気があったり、幅広いアジア系文化も程良く融合していて芸術で文化的コラボレーションをするには、とても良い街だと思います。
世界の注目の的・ベイエリアを目指す人にメッセージ
日本は狭い島国なので、外に攻めていく人間が発展の鍵を握っていると思います。同時に、日本人の凄さというのは「アルチザン=職人芸」なんですよね。ベイエリアにデジタル的な分野を学びに来た、というだけでなく「日本の文化」を発信するものをどんなジャンルでもいいので制作してほしいですね。CG映像で言えば、SFのダウンタウンの街並みに青森のねぶた祭りの像が行列で練り歩く、なんてのも面白いアイディアですよね。日本文化を世界にアピールしていく日本人が増えてきたので、僕も一緒にがんばっていきたいです。
石井 達也(いしい たつや)
1985年「米米CLUB」のボーカリストとしてデビュー以来、ソロ活動を並行すると共に音楽、舞台美術、絵画・オブジェ制作、役者や映像監督等、表現者として多岐にわたり活動する。