飯島 隆宏氏 / POV – Founder CDO(Chief Desgin Officer)

ベイエリアならではの刺激と発想劇的なコントラストは創造のエナジー

読者の皆さんは既にご存知の通り、シリコンバレーには様々な分野でのスペシャリストや、ユニークなアイディアを持つイノベーター達が沢山存在している。今回ご紹介するのは、そんなスペシャリストの一人、飯島隆宏氏だ。

飯島氏はパナソニックの工業デザイナーやディレクターとして活躍後、2014年にシリコンバレーの米国デザイン拠点の所長として赴任。その後、独立しPersistance of Vision Inc.を起業。現在は、Chief Design OfficerとしてロボティクスやAI、Iotの分野でフューチャーコンセプトを発信しており、そのユニークなアプローチは業界から注目を集めている。

シリコンバレーと飯島氏の「これまで」と「これから」を語って頂いた。

20年以上勤務していた大企業を退職して起業したきっかけは?

パナソニックでの最後の3年間、ここベイエリアで過ごしている間、GAFA(Google・Apple・Facebook・Amazonの4社。頭文字を取って称される)と言われる企業がごく身近に存在していたり、日々新しいモノやビジネスが生み出されるスピード、そしてあり得ないほど快適な気候に恵まれたここ独特の風土や雰囲気に親しむ中で、「挑戦すれば何でもできる」といういわゆるCan Do Cultureに乗っかって、ついつい自分でもやれるような気がして(笑)、起業に至りました。

POVのメンバーと / 趣味のサーフィンとマラソン仕事の前に楽しむことも

米国で起業して、感想は?また、日本で働くのとどういった点が違うか?

時間もリソースも収支も全て自己責任で管理、完結できる点が何より自分には適していました。仕事量も自由な時間も自分でコントロールできます。その意味では集団のルーティンが基本の農耕民族から嗅覚と個人技が基本の狩猟民族になったカンジです。我々の仕事のスタイルでは、オフィスを持たず、米国中に散らばっている仲間たちとテーマごと適切なメンバーで集まってチームビルドをしつつ遠隔とリアル両方のコミュニケーションを駆使して進めていくという形です。数年かけて自然と行き着いたスタイルで非常に気に入っています。

今までで最も面白かった仕事は?

私の場合、企業に勤めていたときやっていた仕事も、起業してからやっている仕事もほぼ一貫して「未来の姿」を形にすることなんです。例えば以前に手掛けたSmart Table(写真下)。一見どう見ても普通の木製のテーブルに、プロジェクターなどではなく木目の下から突如映像が表示されたり、コーヒーを温めたりビールを冷やしたりしてくれる「魔法のテーブル」です。これを単なる絵とか映像とかではなく、実際に技術を実装したPOC(Proof of Concept)で表現するのは本当にエキサイティングですし、そうしたプロトタイプを展示会や店舗に置いてオーディエンスの想像以上の反応を見たりするのが何よりも楽しいですね。

未来的なコンセプトを形にする仕事では、どのようなことからインスピレーションを得るのか?

シリコンバレーに住んでいて思うことはとても劇的なコントラストを日々感じるということです。爆速で進化するテクノロジーの一方で豊かな自然に恵まれている。苛烈なビジネスの一方で素朴なヒッピーカルチャーが存在する。電気自動車や自動運転車が走るハイウェイを50年以上前のフォードやコブラが走る。サイエンスをとことん追求する一方でヒューマニティやサスティナビリティなども追及される。コントラストは創造のエナジーだと思っていて、そうした激烈なギャップやミスマッチに多くのヒントを見出します。一見全く関係のなさそうな要素に普通は気付けないような近似性を見出す、いわゆるデザイン思考のような発想が最も活かされる環境があるんだと思います。

飯島氏の手掛けたパーソナルアシスタントロボット「PICO」2017年のCESショーに出展され話題を集めた。

今後はどのような活動を目指しているか?

私自身は自分の会社をGAFAのような大企業にしたいわけでも「世界を変えてやる!」とかいう野心がある訳でもなく(笑)、自分の持っている能力が社会の発展に役立てるならそれで良いと思っています。とはいえデザイナーですから人をアッと言わせたいとか、美しいものを創りだしたいという根源的な欲求は死ぬまで枯渇しないとは思います。ですので具体的なデザインでも、音楽や映像制作でも、コンサルティング、学校での授業でも、どんな場面でもそんな「ユーモア」や「エステティック」な企てや仕掛けは常に実践していくと思います。

後は、やはり米国に住んで、あらためて自分の日本人としてのアイデンティティを強く意識するようになりました。その意味から、自分の仕事を通じて「日本人だけが持つ存在感や価値観」みたいなものを発信できればとも思っています。

ベイエリアで頑張る Jweeklyの読者へメッセージ

私から見てベイエリアには、QOL(Quality of Life)が自ずと上がる環境があると思います。朝早くからランやサーフィンをして仕事の集中力を高めて、明るいうちに帰宅して家族との時間を大切にする。日本では働き方改革が叫ばれていますが本当は労働時間の短縮ではなく、働き方や生き方そのものの「質(Quality)」をどう上げるかが重要なんだと思っています。仕事で生じる前向きなプレッシャーを豊かな自然で潤すような生産的なコントラストを相互に触発させれば、日常にも創造性が生まれ、日々が美しく輝くのではないかと思います。

一度しかない人生を是非楽しんでいきましょう!

飯島 隆宏(いいじま たかひろ)
多摩美術大学立体デザイン学部プロダクトデザイン科卒業後、松下電器産業、現在のパナソニック株式会社に入社、工業デザイナーとして携帯電話やAV機器など多くの商品デザインを手掛ける。2000年頃からプレイングマネージャとして管理職とデザイナーを兼務し、プロダクトデザインのみならずID/UI/UXデザインの総合ディレクターとして活躍。その後、2014~2017 米国デザイン拠点の所長としてシリコンバレーに着任。2017年に退職後、米国にてPersistence of Vision Inc.を起業、テクノロジーとデザインを融合させた独創的なクリエイティビティで、ロボティクスやAI、IoTの分野で未来を先取りしたフューチャーコンセプトを精力的に発信している。趣味はサーフィン、マラソン、ワイナリー巡り。

Persistence of Vision Inc.
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