ヴィーガン特集 : 徹底解説!なぜ今ヴィーガン?

最近何かと話題の「ヴィーガン」。100%植物なのに本物の肉みたいなビヨンド・ミートが注目されたり、バスケットボールのカイリー・アービング選手、テニスのセリーナ・ウィリアムズ選手など、アスリートでもヴィーガンを実践する人が増えています。ポルトガルでは2017年に全ての公共施設(病院・学校・刑務所)でヴィーガンメニューを設けるよう法律で定め、ニューヨークでは公共施設での加工肉の購入を50%カットしました。学食にヴィーガン食を自主的に取り入れる学校もでてきています。それは一体なぜでしょうか?

ヴィーガンの始まり

人間の健康を高め、地球生命の存続を確かなものとする点で、菜食に勝るものはない
– アインシュタイン 

古代ギリシャの哲学者から功利主義でお馴染みのベンサムなど、歴史上で度々「動物の権利」について言及する人達や、菜食を実践する人達がいました。そんな中、1944年にイギリスのDonald Watsonという人物が中心となり、「動物の権利や菜食について、しっかり話し合う場が必要だろう」ということから、ヴィーガンという言葉が考案され、翌年、The UK Vegan Societyが設立されました。

様々な誤解もありますが、ヴィーガニズムは端的に言うと、「可能な限り」動物からの搾取をなくす、という志向です。例えば、メープルシロップや他の甘味料があるから、わざわざ蜂蜜を食べる必要はないと考えます。蜂が一生で生成できる蜜の量がティースプーン1杯にも満たないからです。「蜂の搾取」と言うと大げさに思う人もいるかも知れませんが、作物を受粉してくれる蜂がいなければ、人間も生きていけません。現在の蜂の大量死に警告を鳴らす科学者が多くいます。

動物への意識の変化

農畜産業振興機構の「食肉の消費動向について」によると、現代の日本人一人当たりの肉の消費量は、1960年より約10倍も増えています。その需要の為、現在9割以上の家畜が人工受精により休み無く妊娠・出産させられています。また、品種改良によって鶏は本来の10倍以上の卵、乳牛は2倍の量の乳をつくるようになりました。牛は本来なら20年程生きますが、乳牛は5年程で立つ体力もなくなり、その後は肉として処分されます。

動物の権利と人権をゼロサムで考えてしまう人が少なくないですが、ヴィーガン人口の増加は、人権問題への関心の高まりと比例していています。近年、人種差別や女性の権利への意識が高まっていますが、食の快楽の為に動物の身体がそのように扱われてる事を快く思わない人が同時に増えてきています。

畜産業者でも、例えば1925年から乳製品を販売していたニューヨークのElmhurst 1925という会社は、2017年に100%ヴィーガンの植物ミルク製造業者へと転身しました。菜食ビジネスの盛上がりとともに、今後そういう業者が増えて来るだろうと予想されています。

栄養の知識の広まり

ヴィーガンというと栄養不足のイメージを抱く人が少なくないですが、2016年、10万人以上の栄養士・学者から成る Academy of Nutrition and Dieteticsは「バランスに考慮した菜食は健康的で栄養も十分にあり、いくつかの病気を予防する効果もある。子供や妊婦、アスリートにも適している」と結論を出しました(Position of the Academy of Nutrition and Dietetics: Vegetarian Diets)。もちろん、ヴィーガンのジャンクフードばかり食べたり、極端なカロリー制限などを同時にすると栄養が偏りますが、それは普通の食事でも同じです。

プロテインと言えば、肉!というイメージが強いですが、例えば、大豆のアミノ酸スコアは肉や卵と同じ100点満点、固めの豆腐はむしろ肉よりタンパク質が多く、カルシウムやマグネシウムも豊富です。植物の鉄分(非へム鉄)は人体への吸収にビタミンCが必要ですが、緑野菜には自然とビタミンC、鉄分の両方が豊富です。完全菜食では摂取できないと言われていたビタミンB12やDHAも、今はサプリや代替食品などの形で容易に摂取できます。動物性食品による脂質異常症や酸化・炎症作用などの弊害を心配するアスリート達が、栄養たっぷりで弊害の少ない菜食に注目するのも不思議ではありません。 

今年9月に、菜食アスリート達を取り上げたドキュメンタリー映画 『The Game Changers』が公開されます。制作にはアーノルド・シュワルツネガー、ジャッキー・チェン、テニスのノバク・ジョコビッチ選手など豪華メンバーが関わり、ヴィーガンへのイメージが一新するだろうと注目されています。

環境問題への対策として

現代社会は地球温暖化や海の汚染など、様々な環境問題を抱えていますが、畜産がその大きな原因の一つとなっています。畜産によって排出される温室効果ガスは、車や飛行機など、すべての交通機関を合わせたものより多いと言われています。

また、南米の熱帯雨林を伐採して栽培されている穀物の8割、北米で栽培されている穀物の6〜7割程が家畜の餌用です。日本の家畜もそうした穀物を輸入して育てられており、30〜50グラム程度の牛プロテインを生成するために、約1キロの穀物プロテインが消費されている非効率的な状態です。そうした畜産・農業によって、野生動物も絶滅の危機にさらされています。地球にいる哺乳類は現在、人間と家畜を除くとたった4%だけになってしまいましまいました。(The biomass distribution on Earth – PINAS

海の状態も思わしくありません。鰻や半種以上のマグロが既に絶滅危惧種にされていますが、日常魚だった秋刀魚や鱈などの存在も危ぶまれています。地球の酸素の3分の2を生成し、大気を正常に保っているのは海の生き物です。汚染や乱獲などでこのまま海の生態系が崩れ続ければ、環境問題は深刻さが増します。

食事を菜食にした場合、多くの動植物の命が救える上、消費する水の量、必要な土地面積、排出する温室効果ガスなどの環境負荷を大幅に減らす事が出来きます。アインシュタインの言葉通り、個人で出来る環境問題対策としては、効果が一番高いと言えます。

ベジタリアンは、地球温暖化を抑止できる:研究結果
食肉消費を大幅に削減すれば、環境にも健康にもよいという研究結果をオックスフォード大学が発表した。温室効果ガスを最大3分の2削減、世界全体で約242兆円のコストを節約できる可能性があるという。

ベジタリアンは、地球温暖化を抑止できる:研究結果 WIRED

菜食というと「制限」ばかり注目されますが、例えば豆腐、がんもどき、お麩や湯葉などは肉の代わりとして考案されました。菜食者が多いインドではスパイスが発達したり、植物ミルクは米由来、豆由来、麦由来、ナッツ由来など多用です。実は、菜食志向は豊かな食文化の発展に大きく貢献してきたのです。レシピも膨大にあるので、新しい味覚の冒険として、ヴィーガン食を楽しみながら、問題解決に貢献してみてはいかがでしょう。