第22回 オンライン・ピアノレッスンの今日この頃

 みなさま、こんにちは。シリコンバレーでピアノ教室を主宰している、有座なぎさです。「音楽教育のススメ」と題したコラムを毎月第四週目に担当させていただいています。
 3月中旬に発令された、Shelter-in-place order から早四ヶ月が過ぎようとしています。みなさまにはいかがお過ごしでしょうか。夏休みに入り、キャンプや旅行、一時帰国など、例年だと楽しい計画でいっぱいのはずの夏休みも、今年はいつもと勝手が違いますね。サマースクールやキャンプも軒並み、オンラインとなり、飛行機に乗って里帰りや他州に旅行というのも、いつものように気軽に、というわけにはいきませんね。かくいう私もSIPが発令された当初は、こんなに長く外出制限が続くとは思っていませんでした。今月は、そんな私のピアノ教室のオンラインレッスンの毎日を振り返ってみたいと思います。
 3月に突然発表されたShelter-in-place order直後、私のピアノスタジオでは、すぐにオンラインレッスンのためのガイドラインを作成し、自宅でさまざまなオンラインレッスン用のプラットフォームを試して、生徒さんとご父兄に説明した上で、オンラインレッスンに切り替えました。準備から、実際にオンラインレッスンに移行するまで、一週間しかありませんでした。生徒さんたちのピアノの歩みを止めたくなかったので、大急ぎでオンラインレッスンの準備に着手しました。私のスタジオでは、録音用のマイク、プリアンプを接続し、レッスン室内のサラウンドスピーカに繋いで、生徒さんと通信する一方、生徒さんの方は、その時点でマイクやスピーカを持っているご家庭は少数でしたので、一番手軽なFaceTime でレッスンをスタートさせることにしました。

 正直、初めは戸惑うことも多く、「オンラインレッスンで、果たして生徒たちは上達するのだろうか?満足のいくレッスンができるのだろうか?」と悩む日々が続きました。一番の懸念が、回線により発生するタイムラグ(時間差)でした。普段、特に習い始めの小さい生徒さんたちには、声を出して歌ってもらうことが多く、その際、私がピアノ伴奏をして、それに合わせて生徒さんにドレミや歌詞で歌ってもらうことにより、音感指導をしています。また、レッスンで一緒にピアノを弾いたりすることも多いのですが、オンラインのレッスンでは、それらはほぼできないことが判りました。回線を通すことで、どうしても時間的なズレが生じてしまい、同時に一緒に演奏することは困難な上、時間的なズレ以外にも、マイクとスピーカを同時に使用する、つまり同時にお互いが話したり演奏したりすると、相手の声や演奏がよく聞こえなくなるということも判りました。それゆえ、オンラインレッスンでは、どちらかが弾いたり、話したりしている時は、他方は聞き役です。もちろん、レッスンですから、生徒さんが弾いたり、歌ったりするのがメインなのですが、時には、途中で止めて、音の間違いを指摘したり、演奏方法について実際に弾いて見せたりすることもあります。ただ、どうしても、リアルタイムの通信ですと、細かいニュアンスやタイミング、音色の変化などを聴きとるのが難しい場合があります。Wifi 環境がよくない場合には、なおさらです。そんな時、私の教室では、生徒さんに、自宅で自分の演奏のビデオを撮ってもらい、それをアップロードして、私とシェアする形で生徒さんの演奏を聴かせてもらっています。そうすることにより、ペダルの音の濁りやアーティキュレーション、音色の変化やタイミングなどの細かい点まで明確に分かり、より行き届いた指導ができるようになります。また、生徒さん自身も、録音するとなると、多少は緊張してたくさん練習するようになるので、その分、上達も著しく、この方法はとても効果的でした。

 次に憂慮したのが、生徒さんのモチベーションの維持と向上です。3月以降、予定されていたコンサートやフェスティバル、リサイタルなどが、軒並み中止となり、発表する場がどこにもなくなってしまい、意気消沈した生徒さんも少なからず見受けられました。そこで、オンラインで申し込めるコンペティションをいくつか探して、生徒さんたちに声をかけてみることにしました。いつもは、コンペティションを受けるのは、上級、中級以上の生徒さんがほとんどなのですが、今年は思い切って、初級の生徒さんにも声をかけてチャレンジしてもらうことにしました。中には、初めてコンペティションに参加する生徒さんもおり、どうなることかと危惧していましたが、そんな私の心配をよそに、生徒さんたちは、すこぶる意欲的で、声をかけた生徒さんたち全員が、参加を表明してくれました。毎週、レッスンとは別に、自宅でビデオを撮ってもらい、その演奏を聴いてコメントを返します。録音の回数を重ねる毎に演奏も安定し、また自分の演奏を客観的に聞くことで、大いに成長しました。また、Zoom によるピアノリサイタルを、このSIP 中、レベル別に計4回行いました。来月にもまた予定しています。そんな地道な努力が実を結び、4月のコンペティションでは、参加した全員が入賞(一位2名、三位1名)することができました。
 普段はステージの上で演奏するパフォーミング・アーツも、今は、録画やストリーミングによるオンラインが主流です。音楽を学んでいる皆さんは、目標を持ち、是非この期間を有意義に過ごしてもらいたいと思います。