ブドウの収穫後から瓶詰めするまでのワイン造りの工程には多くの選択肢があり、同じブドウ品種から造られるワインでも、どの方法を採用するかによって、仕上がりの味わいは変わってきます。
ブドウを醸造する際に、ブドウを房ごと醸造するホールクラスター(Whole Cluster:以下WC)か、それともブドウの粒を繋いでいる茎の部分=ステム(Stem)を取り除いて果実のみを醸造するディステム(destem)かという、ワインのキャラクターを左右するチョイスがあります。
この選択が可能になったのは、茎を除去する除梗機が開発され、その性能が向上したから。除梗機が登場する前は、収穫したブドウを房ごと容器に入れて醸造する、つまりWCが当たり前でした。除梗機の登場によって、早く簡単に雑味の元となる茎を取り除けるため、現在では大手生産者は特に、ディステムが主流となっています。少量生産者でも、果実のピュアな味わい、滑らかな飲み心地を追求する造り手が選択しています。高級銘柄Wayfarerのピノノワールは100%ディステム。
一方WCの場合、果実だけでなく茎の熟度がポイントとなります。熟していない緑色の茎は、青臭くて苦い。一緒に醸造することによって、青臭い風味や刺々しいタンニンがワインに移ってしまいます。でも、茶色く熟した茎は、青臭さや苦さは薄れ、一緒に醸造すると芳醇なスパイスのような風味や柔らかなタンニンが抽出され、ワインに複雑味や深み、骨格を与えてくれるのです。WCには品種によって向き不向きがあり、カベルネ・ソーヴィニョンは品種の個性としてそもそも青っぽい風味があり、タンニンも豊富にあることから、WCにするとそれらが強調されすぎてしまうため不向き。逆に、タンニンが少なく繊細な風味が反映されやすいピノノワールは WCと相性が良い。
WCを実践する生産者といっても、ほとんどはWCとディステムの混合。収穫したブドウのうちの何パーセントをWCにするかは、茎の熟度、風味やタンニンの抽出度合いを見て決められます。その加減が難しいにもかかわらず、熟した茎がワインに与えるニュアンスに魅了され、WCを採用する造り手が増えています。WC率の高いピノノワールを造る代表格といえばMelvilleとBrewer-Cliftonが挙げられます。
醸造時に茎を入れるかどうか、また入れる茎の熟度によって味わいが変わる、ワインを味わうのに面白いところです。