こんにちは。サンノゼピアノ教室の井出亜里です。
先日、子どもが塾で使う国語のプリントを集めてホチキスで綴じておりました。「斎藤茂吉…、伊藤佐千夫、石川ブタキ…」。ぶ、豚?
よく見りゃ石川啄木。訊けば授業中に啄木を「ブタキ」と読んだ生徒が居たそうで。以来そう呼んでいると。
いかに啄木がクズエピソード満載とは言え、そして「ヒトとして」いかがなものかと糾弾されがちとは言え、清らかな歌を残した偉大なキツツキを豚呼ばわりとは余りな仕打ち。恐るべき子供たち。啄木も草葉の陰―否、浜辺でカニ相手にむせび泣いていることでしょう。
さて、今月の歌は啄木のものではなく『野ばら』です。数多の音楽家が曲を付けた文豪ゲーテの詩。有名どころは軽快な“わっらっべっは、見ぃ~た~り~”のシューベルト作曲のものや、ゆったりとした“わ~らべ~は見~たり~”のヴェルナーの曲。
日本では近藤朔風という人が和訳をつけ、その言葉の美しさと歌い易さで馴染み深い一曲です。
『野ばら』
童はみたり 野なかの薔薇
清らに咲ける その色愛でつ
飽かずながむ
紅におう 野なかの薔薇
手折りて往かん 野なかの薔薇
手折らば手折れ 思出ぐさに
君を刺さん
紅におう 野なかの薔薇
童は折りぬ 野なかの薔薇
折られてあわれ 清らの色香
永久にあせぬ
紅におう 野なかの薔薇
まずは野ばらってどんな花?
ヨーロッパに広く分布する“ロサ・カニーナ”という野生のバラ。派手さは無くて、小さく可憐。イヌバラ、ワイルドローズとも呼ばれ、野のどこにでも咲く素朴な花。これを見るたび、ゲーテは胸の痛みと共に一人の女性を思い出したというのです。
『野ばら』のモデルはこの人です
1770年。大学生でフランス留学中のゲーテは友人に誘われて田舎に行きました。そこで21歳の彼は村の牧師の娘、金髪の美しい18歳のフリーデリケ・ブリオンと恋に落ちます。周りの応援もあって交際開始。純朴な彼女はゲーテとの結婚を望みますが、婚約するところで束縛を嫌ったゲーテが別れを告げ、一人でドイツに帰郷。
一方的にフリ-デリケから去ったゲーテには彼女を傷つけた自責の念や罪悪感もあったのでしょう。22歳の時、古い民謡をもとに、『野ばら』を書きました。一方、フリーデリケはその後独身で一生を終えています。
童とはゲーテ、野ばらはフリーデリケなんですね。
なんと全部で150
ゲーテの『野ばら』は作曲家に大人気。有名なのはシューベルトやヴェルナーの作品ですが、ベートーヴェン、シューマン、ブラームスを始めとする100人近い音楽家が『野ばら』を作曲。作曲者不明のものを合わせて150曲以上が生まれたと言われています。
スルーされたシューベルト
『野ばら』と聞くと一番に思い出されるのが、シューベルトの作品。シューベルトはゲーテを心から尊敬していました。彼が作曲した600曲の歌曲のうち、約70曲はゲーテの詩に付けられたものなのです。
ところが、ゲーテはつれない態度。理由は「曲が全面に出過ぎているから」。シューベルトが心を込めてゲーテに『野ばら』を献呈しても、シューベルトの友人がゲーテに送付しても完全無視。
あの傑作『魔王』ですら、ゲーテは当初、不満でした。町の人が気軽に口ずさめる民謡になればいいなと思っていたところに、シューベルトが実に深刻で劇的な曲をつけたからです。シューベルトの生前は不満を漏らしていた詩人。しかし作曲家の死後、ゲーテは酷評したことを悔い、評価を改めています。
『野ばら』のお話、いかがだったでしょうか。散歩で野ばらを見かけたら、フリーデリケを思い出すかもしれませんね。
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