嬉し懐かし盆踊り

 こんにちは。サンノゼピアノ教室の井出亜里です。埼玉の川越で育った子ども時代、盆踊りは待ち遠しい行事でした。
 時は過ぎて新婚の頃、Bon Danceに興味を持ったアメリカ人の夫に、その思い出話をしたことがあります。お盆には故人の魂がこの世に戻ること。盆踊りの夜は鈴なりの提灯が灯ること。やぐらの上では太鼓が轟き、その下で人々が輪になり踊ること。それが死者への供養になること。

 ふと見れば、夫は硬い表情で「怖いね」。そして衝撃の言葉。
「…で、みんな、骨を持って踊るの?」

 夫、Bone Danceだと思っていました。闇夜、提灯の灯りを頼りに骨を手にして踊り狂う民衆を想像していました。彼の脳内では、妻の故郷は未開の秘境になっていました。

何から始まる?盆踊り
 諸説ありますが、平安時代に始まった、自分で念仏を唱えながら踊る「踊念仏」(おどりねんぶつ)に端を発したという説が有力です。この「踊念仏」が時を経て変化し、歌い手と踊り手に分かれた「念仏踊り」に。これが先祖供養のお盆と結びついて「盆踊り」が完成しました。
 盆踊りの音楽は故人の霊に楽しんでもらうため。踊りは霊をその輪に巻き込み、あの世に送り出す。大地を踏む足の動きは鎮魂や邪気払い、精霊送りの意味があるそうです。
 徳島の阿波踊りを考えてみてください。どれだけ霊が踏まれることか。まずは鳴り物と称されるお囃子集団に静かに踏まれ、次に群れをなした女踊りにリズミカルなステップを踏まれ、最後に力強い男踊りに踏んづけられる。霊たちは、三段構えで漏れなくあの世に直送です。

よく聴く音頭は3種類
 盆踊りでよく歌われる『○○音頭』や『□□節』は、歌詞の内容や起源で、おおよそ3種類に分かれます。ご当地ソング、労働歌、そして恋愛歌。
 ご当地ソングはその土地の名物、名所、未来への発展を謳う『大東京音頭』や新潟の『佐渡おけさ』のような歌。
 労働歌は、魚漁、農業、林業、炭坑などの作業から生まれた歌。北海道の『ソーラン節』が有名です。しかしその労働歌も、時を経て歌詞が変わることが多かったのです。当時の作業のかけ声が、現在の歌の合の手として残っているだけという場合も少なくありません。例えば、山形の『花笠音頭』は、土木作業の土突き歌が起源と言われていますが、昭和初期に歌詞は民謡化され、労働歌の面影はわずかにその合の手、“ヤッショ、マカショ”にとどまります。
 恋愛歌はどれも直球。好き好き好き好き大好きよ〜が耳についたら離れない、出所不明の『ミヨちゃん音頭』はその最たるものでしょう。
 上記の要素が混合した歌もあります。ご当地ソングと恋愛歌の2種類が混ざった『丸の内音頭(東京音頭の元歌)』。ご当地ソング+労働歌は北海道の『北海盆歌』。労働歌+恋愛歌は福岡の『炭坑節』。
ご当地ソング、労働歌、恋愛歌の3種混合は山形の『真室川音頭』です。

弾むリズムで盆踊り
 『○○音頭』や『□□節』に頻繁に現れるのは付点音符。タッカタッカとスキップを踏む時のリズムです。
 このリズムが出る箇所は『東京五輪音頭』を歌った時の“オリンピックのと顔”の“リン”と最初の“顔”、『炭坑節』の“月が出た出た”の最初の“出た”。特徴は躍動感や高揚感。また、歌い易い、覚え易いという利点から盆踊りに多用されます。

囃子言葉は欠かせない
 必ず入るのが合の手です。『北海盆歌』は“エンヤ、コラヤ”。『真室川音頭』は“コリャコリャ”。『大東京音頭』は“ヨイサ、ヨイサ”。『東京音頭』と『炭坑節』は“ヨイヨイ”。『花笠音頭』は“ヤッショ、マカショ”。
 これは深い意味は無いと言われる囃子言葉で、音楽や踊りを盛り上げる役割、作業時には力を合わせるかけ声の役割、あるいは次の節を歌い易くする役割があります。面白い事に、合の手は前述の付点のリズムが多いのです。勢いがあって、言い易い。盆踊りに欠かせない要素です。
 『○○音頭』に太鼓に屋台。浴衣に花火に金魚すくい。8月になると、どうにも懐かしく思い出す盆踊りのお話でした。

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