「自分のことが好きになれた」という言葉が、私の原動力。

アートセラピスト・心理カウンセラー
吉澤やすの

◆よしざわ・やすの プロフィール
東京出身。美術大学を卒業後、アートセラピーを学ぶために渡米。Notre Dame de Namur University大学院でMarriage and Family TherapyとArt Therapyを修了。公立小学校やDV・犯罪被害者支援者団体、非営利クリニック、アダルトデイケア施設などで3000時間以上の臨床心理研修と様々な専門トレーニングを経てカリフォルニア州公認マリッジ・アンド・ファミリーセラピスト(LMFT#112040)、そして全米アートセラピー資格委員会認定アートセラピスト(ATR-BC#19-154)となる。ライセンス資格取得後は、LA市内のクリニックで発達障害や学校環境に馴染めない子供たちを中心に子供と家族のカウンセリングを提供。コロナパンデミック以降は、日本とカリフォルニア州在住の大人・カップル・子供を対象にオンラインカウンセリングを提供している。

 コロナ禍による、長引く自粛生活で心が少し疲れていませんか?様々なストレスから、カウンセリングを受けたい人も増えているとのこと。今回は、ロサンゼルスを拠点にアートセラピスト・心理カウンセラーとして活躍する吉澤やすのさんにJ weeklyがお話を伺いました。

—心理カウンセラーの仕事って具体的に何をするのですか?

 身体の健康のためにアドバイスやプランの決定をするフィットネストレーナーのように、心の健康のためのサポートをオー ダーメイドで作っていくのが心理カウンセラーです。クライアントさんとの対話を通し、何がストレスとなって心に影響を及ぼしているのかなど不調の原因を整理するところから始め、それを改善するためのプランを一緒に考え、クライアントさんが自身の力でストレスに対処していけるレジリエンス(逆境に打ち勝つ力)やコーピングスキル(対処能力)を上げていくための支援をしていきます。臨床心理の学術理論と州の法律・倫理規 定を基盤に、クライアントさんの安全や守秘義務が厳しく守られ ていることが大きな特徴です。

—心理カウンセラーになったきっかけは?

 中学生の時に大きな病気を経験し、その時の苦痛な時期をアート制作で紛らわせていました。アートが好きだったので美大に進学したのですが、在学中に病気が再発し落ち込んでしまい、本当にやりたいことが分からなくなった時にふと思い出したのが、アートに癒しを求めていた中学生の頃の自分だったのです。それで、色々調べているうちに、『アート』と『癒し』に着目したアートセラピーという学問について知り、興味を持ちました。また、アートが人の心にどう影響し癒しに繋がっていくのかを知りたかったということも大きいです。当時は日本でアートセラピーが学べる学校が無かったため、アートセラピストが資格として存在するアメリカに行くことを決意しました。
 最初はアートセラピーのみを学ぶ予定でしたが、カリフォルニアでは、一般的にアートセラピスト達は州の心理カウンセラー資格も同時保持して活動していたため、アートセラピーと並行して心理カウンセリングの勉強もしていき、心理カウンセラーになりました。
 私に心理カウンセリングが務まるのか不安でしたが、最初の研修先でアートセラピーを担当したキッズクライアント達との体験が、カウンセリングの道を続けていく後押しとなりました。そして、在学中にお世話になった日本人の心理カウンセラーさんの存在もこの道に進むモチベーションとなりました。

—心理カウンセラーと精神科医の違いは?

 日本では心に不調がある時、まず精神科医や心療内科医に掛かり、そこで薬物・心理療法の治療を受けたり、精神科医の指示のもと心理カウンセラーが治療を行ったりすることが多いようなのですが、アメリカでは、精神科医と心理カウンセラーの仕事内容の棲み分けがはっきりしています。心理カウンセラーは、心理療法(セラピー)や心理介入などを通じて心の問題に対話を通じてアプローチし、心理学観点から症状の改善を目指していきます。
 一方で精神科医は、クライアントさんの身体的機能や脳内物質の影響からくると思われる不調や症状などに医学的観点から、投薬や医療のケアをしていきます。そのため、自分の症状がどこに原因があるか判らない場合はまず、心理カウンセラーさんをあたり、そこから精神科医の介入が必要かどうかを判断してもらうのが良いかもしれません。

—医療機関に通っていてもカウンセリングを受けることができますか?

 医療機関に通っている方は、心理カウンセリングについて担当医に相談してみるのが良いかと思います。大きな病院でしたら、常駐している心理カウンセラーさんもいらっしゃることもありますし、医療クリニックでも、信頼のおけるカウンセラーさんを紹介してもらえる場合もあります。

—何回ぐらい通えばよいのでしょうか?

 ある調査では、多くの方が7回〜10回で効果が感じられたという結果があるそうですが、一回で十分だった方もいれば、長期的に心のメンテナンスを兼ねて年単位で続けられる方もいます。これはクライアントさんの相談内容やカウンセリングの目的やゴールによって個人差があるかもしれません。一般的には、週1回から始め、徐々に隔週、月一回、と回数を減らし終了していくことが理想ですが、これもクライアントさんと相談の上で決めていくことになります。

—カウンセリングの特別な手法というのがありますか?

 心理カウンセリングの理論はとても多く、さらに脳や神経医療、 臨床研究の発展に合わせ新たな理論が日々誕生しています。そのため、対話式のカウンセ リングだけでも、様々なアプローチに沿って独自のテクニックや手法があり、カウンセラーによりカウンセリングのスタイルは変わってきます。対話のカウンセリング以外の手法では、アート制作を介するアートセラピーや、音楽を通じて行うミュージックセラピー、ダンスや表現芸術、動物、園芸など、言葉以外の媒体を使ったセラピーも存在します。

—今までで最もやりがいを感じたことがあれば聞かせてください。

 クライアントさんから、自身の様子や人間関係が良い方向に変わっていったと教えてもらった時や「自分が好きになった」と感謝された時にとても嬉しく、感謝されることがこの職業をやっていて良かったなと思う時です。

—必要なカウンセリングを提供できない場合はどうしますか。

 心理カウンセラーさんによって得意分野が大きく異なるため、クライアントさんの相談内容が自分の領域外の場合は、その領域を専門とされている心理カウンセラーさんを紹介することが一般的です。それは、クライアントさんを見放したという意味ではなく、クライアントさんにベストなサービスを提供することを第一優先にすることを目的にしているからです。例えば、医師と一言に言っても、耳鼻科や脳外科、小児科、眼科など各症状に合わせて専門分野の医師に掛かるように、心理カウンセリングにも、人の数だけ異なる事情があり、アプローチ方法も多岐に渡るため、専門分野が存在しています。医師よりも、オーバーラップしている分野はあるかもしれませんが、それでも、自身の受けてきた臨床経験やトレーニングの種類によって、専門分野を確立しているカウンセラーさんが一般的で、全てを網羅されている方はいらっしゃらないでしょう。
 カウンセラー自身がそれをとても理解しているため、自分よりも別の専門経験を持ったカウンセラーさんの方がクライアントさんのためになると判断した場合は、それに当てはまるカウンセラーさんを紹介します。

—アートセラピーとは具体的にどういうことをするのですか?

 アートセラピーは、芸術活動や美術作品を利用しカウンセリングを行っていく心理カウンセリングの手法の一つです。例えば、状況を言葉で上手く説明出来ない小さな子供や、言葉で説明できないような症状を抱える方などに対して、コミュニケーションを図るためのツールにアートを利用したり、アート制作中の様子や作品に描かれるものを読み解きながら深層心理や無意識を探っていったり。アートを通じて見えてくるクライアントさんの心理を取り扱いながら、カウンセリングをしていきます。
 また、視覚や触覚などの体感を使うことで気分を落ち着かせたり、身体の感覚を取り戻させたりすることにも効果があります。アート制作に没頭する時間やその過程で得る発見や喜びの感覚が癒しにもなるとされています。これらの特性を理解した上で、クライアントさんの状況に合わせ、アート制作や内容を変えながら心理カウンセリングを行なっていきます。

—日本とアメリカの心理カウンセリングの違いは?

 一番大きな違いは、カウンセ ラー資格の信用度が日米で大きく 異なる点だと思います。アメリカ で『心理』を扱う職業は、数千時間の研修期間を経て州の心理職資 格試験を突破した有資格者(研修 生も資格登録義務あり)に限られ ており、我々の活動内容は、心理カウンセリングを利用するクライアントさんの立場や権利を守るこ とを最優先に、細かく法律・倫理 規定に従うことが求められています。一方日本では、国家資格がやっと誕生したものの、現状、心理カウンセリングを行うことに資格の有無がはっきり規制されていないため、クライ アントさんが利用しにくい状況が存在するように思います。そのため、日本人の方のカウンセリングへの不信感や抵抗感がとても強いのを感じています。アメリカでもカウンセリングやメンタルヘルスへの偏見が強い地域もありますが、都市部ではカウンセリングにかかることが少しずつ特別なことではなくな りつつありますし、心理カウンセラーの資格の専門性も社会的に認められ、健康保険の適応も出来ます。特にコロナパンデミックが起きてからというもの社会全体がメンタルヘルスの啓発活動を積極的に行うようになり、心理カウンセリングの敷居が低くなっているように感じます。そこも日本との大きな違いかなと日米両国のクライアントさんに接して実感した部分です。

—J weeklyの読者に一言

 コロナパンデミックという大きな変化を経験し、いつも以上に心に負荷を感じながら頑張っている方はとても多いと思います。ストレスフルな時期だからこそ、自分に優しく思いやることを第一に、助け助けられながら、この大変な時期を一緒に乗り切りましょう。


https://www.bunkaiwa.com/therapy (セラピストページ)
https://note.com/arttherapist_yas アートセラピーに関するnoteアカウント